5月から6月にかけての「バーナンキ・ショック」は市場心理を急転させ、脆弱な新興国経済を窮地に追いやりましたが、アメリカの金融政策が自国の経済運営を中心に考えていることは以前から周知の事実だったはずです。ドルに依存する経済体制の脆さを露呈したという意味では、過去の新興国問題で見られたのとほぼ同じ現象が繰り返されたに過ぎなかったと言えるでしょう。

過去の新興国問題と比較した相違点は?

 2013年の新興国危機は、外国資本に依存している点で、確かに過去の危機の時代と似ているところがありました。特にドル建て資本は、アメリカの金融政策の修正で一気に流れが変わる、という構造も同じでした。そこには「新興国経済の基盤は依然として脆弱だ」という資本市場の認識が通奏低音のように流れていたのです。

 しかし、1990年代とは明らかに異なる部分もありました。たとえば外貨準備の金額です。ブラジルの外貨準備高は、1993年当時の約300億ドルから2013年には約3735億ドルと10倍以上の規模となっています。インドは約100億ドルから2685億ドルに、トルコも63億ドルから1056億ドルにまでそれぞれ増加しました。

 これは1990年代の危機を教訓に、自国通貨を守るための防衛手段として外貨準備の積み上げを図ってきた結果でした。豊富な外貨準備は、対外負債を返済する上で十分な体制にある、との市場へのアピール手段にもなりました。

 また自国の為替レートが固定相場ではなく変動相場制に移行していたことも、大きな相違点でした。1980年代や1990年代の新興国の通貨危機は、長期的に維持不能な為替相場水準を固守しようとして失敗したことが発端でした。現在、多くの新興国は変動相場制を適用しているために無理な介入を行う必要がなく、逆に為替水準の急落が輸出部門を支援するという機動性をも持っています。

 経常赤字は新興国経済につきものの弱点ですが、為替調整や競争力向上、資源需要などの要因に支えられて、アジア諸国やロシアなど多くの新興国では1990年代よりも経常収支が改善傾向にあることも、相違点のひとつに挙げられます。