“飛び火リスク”の典型例だった

 ただし1980〜90年代と現代を比較した場合、新興国経済にとって強い逆風となる「重要な相違点」は、資本市場における構造変化です。以前は資産運用といえば、ミューチュアル・ファンド(オープン型投資信託)や保険・年金といった機関投資家が主流でしたが、現在の投資家層は多種・多様化しています。

 たとえば、1990年代にようやく注目を浴びるようになったヘッジファンドはいまや世界の市場を先導するほどの影響力を持ち、その資産規模は約3兆ドルに達しています。また、中央銀行や政府機関が外貨準備や石油代金などの積極的な運用を手掛けるソブリンウェルス・ファンドも6兆ドル規模に膨らんでいます。新規参入組の中には、借入を伴うレバレッジ運用を行うファンドも少なくありません。

 これらがすべて「投機的だ」と決めつけるわけにはいきませんが、投資家の多様化が投機的な動きを高めていることは間違いありません。ただし、投機を規制によって過剰に抑制すれば市場流動性が失われるリスクがあります。投機的な売買が「いつでも買えて、いつでも売れる」という市場構造を支え、長期的・安定的運用のための価格インフラを提供していることは否定できないのです。

 そんなパラドックスを内包する資本市場の下では、ある新興国市場に対する投機的行動が連鎖的に他の新興国市場への売り圧力となってあらわれるような「飛び火リスク」が付きまといます。2013年に起きたのはその典型例です。

 また、ETFのように先進国向けに開発された運用商品が新興国市場にも導入され、短期売買を通じて、必要以上に相場の振幅を増幅させていることも見逃せません。新興国市場は基本的に長期運用の対象となるはずですが、こうした市場構造の変化によって、短期的マネーの圧力にもさらされることになったのです。