「上海の人口が減った」というのは、この3月末に上海を訪れて感じた率直な印象だ。これでも一時より増えたようだが、“上海の東京タワー”に相当する東方明珠塔からは、国内外から集まる黒山の人だかりがほとんど消えていた。
昨年開業したばかりの世界一高い「上海国際金融中心(SWFC)」も同様。観光客が作る長蛇の列を想像し2時間待ちは覚悟で行ったが、100階まで「待ち時間ゼロ」で上ることができた。日曜日の昼というピーク時にもかかわらず、である。上から見下ろせば、世紀大道を走る車の量も少ない。この寒々しさは、通貨危機を経験した97年の頃を思い出させる。
当然、外国人観光客を相手にボロ儲けした産業は大打撃だ。その代表的なものが「ニセモノ市場」。地下鉄2号線「上海科技館駅」には、これら非正規品を販売する市場が網の目のように広がっているが、主要顧客である外国人の客足がパタリと途絶えた。シャネルのバッグやLVの財布、ラルフローレンのポロシャツに群がる観光客の姿はどこにもなく、店によっては「売上ゼロ」という日もあるという。
外国人駐在員の居住地である古北新区でもその変化は明白だ。昨年10月に比べ、明らかに人口が減った。このエリアのメーンストリートでもある水城南路も、かつては道行く外国人で溢れていた。だが今は、すれ違うほとんどが、血眼でチラシを配る不動産仲介会社の営業マン。カルフールからも欧米人ファミリーの姿はほとんど消えた。
台湾人の激減は、「上島珈琲」(台湾資本)を見ればわかる。上海在住の台湾人がたむろするこの店は、タバコの煙と商談が絶えることがなかったが、筆者が訪れたその日は、36席あるテーブルに座るのはたった2組だけ。フロアの照明の半分を消し、従業員を半減し、パンケーキの小麦粉も半分に抑え・・・の開店休業状態だった。
長江デルタの工場の倒産で台湾人が引き揚げたというニュースが伝えられたのが08年10月。台湾人相手の商売は無痛ではいられず、普段は台湾人セレブの予約でいっぱいのエステサロンもガラ空きだった。
日本人のマーケットもまた同じ。家族連れが帰国すればファミリータイプは動かない。上海に居残る単身者が頼みだ。「とにかく引越しの理由を作って、上海に残っている人を回して需要を掘り起こしているのが実情」と不動産賃貸に詳しい日本人は明かす。日本人向けに開業した某クリニックも「企業向けの定期健康診断の数が半減した」と言う。日本料理店も振るわない。社用族を失い、夜の書きいれ時であるにもかかわらず座席は4分の1も埋まらないという厳しい状態だ。