自分を変えられるのは
自分だけ

岸見 私は「楽天主義」と「楽観主義」を使い分けています。楽天主義の人は何とかなると思っている人。ただ、それゆえに何もしないわけです。悲観主義の人も、何ともならないと思っているから何もしない。でも、ぼんちゃんは違います。「何とかする」と考えている。これを私は「楽観主義」と呼ぶのです。そうしたぼんちゃんの姿を見ると、やはり生きる希望を持てる映画だなと思います。
「人は変われない」という前提に立ってしまうと、どうにもなりません。もし「変われない」という治療者がいるとしたら、あるいは、そういう考え方の教育者や作家がいたら、いったい治療とか、教育とか、育児ってあり得るのだろうかと。人は変われると思うから治療しようと思うし、治療が大事なわけです。教育もそうでしょう。それを真っ向から否定するような世界観に立っていては、これからはやっていけないと思います。ただ実際には、カウンセリングに来た人に「あなたのせいじゃない。過去のせいだ」と言えば、ある意味安心はされるのですが(苦笑)。

小林 でも「それでは、もうどうにもならない」ということに、たぶん多くの人が気づき始めたのが今の時代なんでしょうね。

岸見 そう思います。『嫌われる勇気』がすごく好評で、アドラー心理学も注目されていますが、そこには、たぶんそういう時代の流れがあって「何とかしていかなければいけない」と多くの人は気づき始めているのではないでしょうか。たぶん『嫌われる勇気』に書いてあることは、まったく知らないことではない。潜在的には腑に落ちるような内容で、それが言語化されているので「ああ、おもしろいな」と思って下さる。そして読んだ人が、小林監督もそうですが、人に紹介してくださるんですね。それで、どんどん広がっていくという感じです。

小林 あと、アドラー的なものごとの捉え方というか、発想の仕方が非常に参考になりました。「ああ、こう捉えるんだ」と。ある出来事を悪いことの原因だと誰もが思ったとしても、『嫌われる勇気』を読むと、もっと多面的なものがあって「良い部分もある」といった発想ができるはずだと。それができるかどうかで、より面白く生きられるような気がします。

岸見 映画の最後のほうで、ぼんちゃんが「未来からしたら、今なんて一瞬だ」と言いますよね。そのとおりで、今から見れば過去も一瞬です。だから過去は、あっという間に克服できる、乗り越えられると僕は思っています。もっと過去を冷静に客観的に見られるようになると、いろいろなことが変わってくるはずです。

小林 たしかに、その辺の発想というか柔軟さを常に持っているだけで、だいぶ気持ちが軽くなる感じがします。あと「自分しかいない」「自分がやるしかないんだ」という部分も響きました。

岸見 そう、自分を変えられるのは自分だけなのです。