トレードオフがないと競争優位は築けない

川上:3つのステップを従業員にどのように説明していますか? 「1 生産性のフロンティア」は、平たく言えば、低コスト(コストリーダーシップ)と価格以外の価値(差別化)のどちらかでポジションどりをするべきという考え方ですね。

川上昌直(かわかみ・まさなお) 兵庫県立大学経営学部教授 博士(経営学) 1974 年大阪府出身。 01 年神戸商科大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。 同年、福島大学経済学部助教授(呼称変更により准教授)に就任。 08 年兵庫県立大学経営学部准教授を経て、12 年より現職。 初の単独著書『ビジネスモデルのグランドデザイン 顧客価値と利益の共創』(中央経済社)は、13 年に日本公認会計士協会・第41回学術賞(MCS賞)に。 著書に『儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書』『課金ポイントを変える 利益モデルの方程式』(以上、かんき出版) 『まず、のび太を探そう!』(翔泳社)など。 http://wtp-profit.com

星野:はい。例えば、『星野リゾート 青森屋』の旅館再生事業では差別化を図るため、地域らしさや地域文化を前面に打ち出したサービスを展開しました。津軽弁だけで接客サービスを行う、郷土料理を楽しめる、青森の祭りや津軽三味線の演奏を満喫できるなど独自の方針を掲げたところ、稼働率80%以上を達成するなど大きな成功を収めました。ただし、それは2005年当時の話。2012~2013年には青森県の大型旅館のほとんどが同じことをやっています。

川上:マネされやすいサービスだったということですか。

星野:そうです。だって、津軽三味線弾いてお客様が集まるんだったら、そこには何のトレードオフも発生していないですよね。競争優位の活動にはならないんです。

川上:でも、「じゃあ、やらなきゃよかった」にはならないんですね。

星野:はい。瀕死の旅館ですから、まずは生産性のフロンティアで、「地域らしさや地域文化」を掲げて他社との差別化を図らなければならなかったから。ただし、この状態はトレードオフを伴う第2ステップには至っていない。それを全社員に説明していくんです。