頭金なし、変動金利、
期間35年のワナ

 ——「老後貧乏」の危険性がかつてより高まっている背景を教えてください。

 土地や建材の値上がりで、特に都心部ではマンションも一戸建ても価格は上昇傾向にあります。本来、今の価格水準なら「買いたくても希望するエリアの新築マンションには手が届かない」といった人が多いはずです。

【前編】借り過ぎ危険!<br />老後貧乏にならないための住宅ローンの借り方とは?深田晶恵
ファイナンシャルプランナー(CFP)、(株)生活設計塾クルー取締役。1967年北海道生まれ。外資系電器メーカー勤務を経て96年にFPに転身。現在は、特定の金融機関に属さない独立系FP会社である「生活設計塾クルー」のメンバーとして、個人向けコンサルティングを行うほか、メディアや講演活動を通じて「買い手寄り」のマネー情報を発信している。18年間で受けた相談は3500件以上。日本経済新聞、日経WOMAN、ダイヤモンド・オンライン等でマネーコラムを連載中。 主な著書に『30代で知っておきたい「お金」の習慣』『「投資で失敗したくない」と思ったら、まず読む本』(共にダイヤモンド社)、『共働き夫婦のための「お金の教科書」』、『図解 老後のお金安心読本~定年後の不安がなくなる』(共に講談社)、『50代から始める「お金」改革 定年後破産しないために今やるべき3つのこと』(すばる舎)他多数。

 それなのに多くの人が希望する住宅を買えてしまうのは、「頭金ゼロ、変動金利、期間35年」という条件で住宅ローンが組めるからだと言えます。

 実際、こうした条件のおかげで、一般的なサラリーマンが自己資金を貯められていないまま4000万円ものお金を借りて家を買っているといったケースは珍しくありません。

 しかし、考えてみてください。ローン期間が35年だとすると、30歳で住宅を購入したら65歳まで、35歳だったら70歳まで返済が続きます。

 たとえ59歳まで800万〜1000万円程度の高収入があったとしても、60歳から再雇用で働けば年収は大きく下がるのが一般的です。だいたい年収300万円、手取り年収は250万円程度になるでしょう。ボーナス分を差し引いて計算すればわかりますが、月々の手取り額は20万円に満たないわけです。この収入で、毎月十数万円のローン返済額を返し続けられるでしょうか?

 さらに、65歳から年金生活になれば、年収はより少なくなります。現役時代の給与や勤続年数にもよりますが、サラリーマンとして40年前後働いた人の年金額は200万〜240万円程度。年金生活で住宅ローンを返していくというのは無謀な話です。

 定年前に住宅ローンの返済を終えられないリスクを抱える人は、確実に増えています。途中で返し切れなくなれば、せっかくのマイホームを手放さなければならなくなるかもしれません。

それどころか、借金返済のために家を手放す決意をしても、住宅ローンの残債より売却額が少ないという事態も考えられるでしょう。「老後貧乏」どころではなく、「老後破綻」のおそれすらあるということなんです。