「新しい労働のルール」の決定と運用は、今後、労使の対話に委ねられる方向に向かうだろう。国が法律でがんじがらめに縛る時代は、もはや過ぎ去った。
前々回の当コラムで、「正社員のクビを切りやすくする改革は受け入れられるか」と題する一文を掲載したら、轟々たる批判、非難が寄せられた。それにお答えする前に、そのコラムの論旨をまとめておこう。
1.私は、今最優先で取り組むべき改革は、労働市場改革である、と思う。なかでも、「正社員と非正社員の処遇格差の解決」が最も必要に迫られている、と考えている。
2.理由は二つある。第一に、正社員と非正社員は同じ仕事をしているにも関わらず、片方にしか昇給昇進の道は開かれていない。はなはだしく社会的「公正」を欠くと同時に、非正社員は非常に不安定な生活を強いられている。こうした状況を放置すれば、ワーキングプアたちの生活の荒廃から社会の劣化が進むだろう。
3.第二に、この正社員と非正社員の処遇格差問題は、日本社会に発生したさまざまな格差問題のなかで、最も深刻かつ象徴的問題だ。その解決方法が示されないからこそ、多くの人々は小泉政権以降の経済的自由主義、市場競争経済に向かう改革の続行を支持しない。逆に言えば、解決の道筋が示されれば、他の改革も動き出す。だからこそ、最優先課題なのである。
4.では、どうするか。正社員を抱えたままで、非正社員の正社員化を進められるほど体力のある企業はまれである。経営者に非正社員の社員化の実行を促すなら、正社員と非正社員を入れ替えることができる仕組みが必要だろう。それには、正社員の整理解雇をしやすくする必要がある。
5.日本では正社員の整理解雇は、ほぼ不可能だ。社員保護の判例が最高裁判決まで積み重なり、いわゆる「整理解雇の四条件」が厳格基準となり、ありていに言えば、倒産寸前に追い詰められなければ、解雇など許されない。であれば、労働法制を大転換し、「正社員の整理解雇を容易にする改革」が不可欠となろう。
以上が、論旨である。「正社員のクビを切りやすく」という刺激的な文言のせいか、反響は絶大で、「経営者の手先」、「正社員と非正社員の分断を図る意図は何か」、「自分は決してクビにならないという傲慢の表れだ」などと、非難が殺到した。甘んじてお受けしよう。私がここで答えなければならない疑問、批判は、集約すると3つある。