「前職ではこうしていた」、「前職ではこうだった」が口癖の社長が、前職と同じ施策の導入を強行した挙げ句、社員から「実験くん」と揶揄され、猛反発を受けるに至った。合理的な導入理由と同じ程度に、相手の気持ちに寄り添う感受性が重要であることを示す事例を紹介したい。

 社員から「実験くん」と呼ばれた社長がいる。グローバル・コンサルティング会社A社のコンサルタントから転職し、IT企業U社の社長に就任した三村氏である。

 三村社長は、U社で次々と“実験”を展開した。受付の無人化、会議室へのプロジェクターの常設化、デスクのフリーアドレス化、技術職社員の裁量労働適用、部長職の個室の廃止、社長直々のコンサルティング教育、社員教育のためのU社ユニバーシティの設置、OBネットワークの構築、本部制の導入、等々である。

 そして、それらの“実験”は、ほとんどが成功した。受付の無人やデスクのフリーアドレス化は、顧客や社員に大きな不都合を与えることなく、収益向上に貢献した。技術職社員の裁量労働適用は社員の自由度を高めたし、部長個室の廃止は社員コミュニケーションの向上に役立った。社長直々の社員教育は社員のスキルを高め、OBネットワークは売上に貢献、本部制は意思決定を迅速化した。

 まさに、グローバルコンサルティング経験の粋を集めた社長直々のイニシアティブである。さぞかし、社員から支持を集めたと思われるだろう。しかし、社員からの支持を、得ることは全くできなかったのである。それどころか、最終的には、社員から不信任をつきつけられることになる。その理由は、つきつめれば、三村社長の口癖にあった。

「前職ではこうだった」の一点張りが
社員からの猛反発を買った

 その口癖とは、(前職のグローバルコンサルティング会社の)「A社ではこうしていた」、「A社ではこうだった」である。