「マザー・テレサより素晴らしい」
87%の人がそう答えた人物って誰?

 他者の助言を無視するという傾向を示す例のうち、私のお気に入りの1つは、1997年に「USニューズ・アンド・ワールド・リポート」誌が行った調査の結果だ。

 この調査では、1000人のアメリカ人に、「あなたは、誰が天国に行けそうだと思っていますか?」と尋ねた。すると、当時大統領だったビル・クリントンにその可能性を見込んだ回答者は全体の52パーセント、マイケル・ジョーダンは65パーセント(その年、ジョーダンが所属するブルズがNBAファイナルで優勝したのが一因かもしれない)、マザー・テレサは79パーセントだった。

 そんななか、天国に行くことができる可能性がいちばん高いとされたのは誰か? それは、この調査の回答者本人たちで、87パーセントだった。明らかに、この調査の回答者の大半は、こう考えたようだ。「マザー・テレサは天国に行かれる可能性がかなり高い。実際、彼女よりも可能性が高い人は1人しか思いつかない。それは私だ」

 私たちはたいてい、自分は同輩たちよりも運がよく、運転が上手で、有能で、健康で、投資が得意だと考えている。行動意思決定と社会心理学の研究では、このような誇張された認識は「平均以上の信念」と呼ばれており、知能、課題やテストの成績、望ましい特徴(魅力や富など)、人格特性(正直さや自信など)を含む、広範な分野で実証されている。もちろん、テストに出てきた望ましい特徴のすべてで、回答者の大多数が平均を上回ることはありえない。下位50パーセントに入る人がかならずいるはずなのだから。このテストは、私たちの認識が誇張されていることを実証している。

高くついたグリーンスパンの過信
――権力は人を自己中心的にする

 権力があると感じ、その結果自信過剰になって、リーダーの地位にある人が適切な助言を無視した可能性のある最近の事例を見つけるのは難しくない。

 2004年以降、一部の経済学者が、住宅バブルを維持するのは不可能で暴落が待ち受けている、と警告しはじめた。1987年から合衆国連邦準備制度理事会議長として非常に高い評価を受けていたアラン・グリーンスパンは、そうした警告を退け、サブプライム住宅ローンなどの危険なローンに対する規制を強化するよう求める声を無視した。

 2007年に金融危機が起こったあと、グリーンスパンと彼の金融政策立案者たちは、重要な意思決定をする際に、自らの経済モデルに信頼を置きすぎていたことが明らかになった。下院監視・政府改革委員会での証言で、グリーンスパンは自分のイデオロギーに「不備を見つけた」ことを認めた。「貸出機関が自己利益を追求すれば株主の資本が守られると考えていた人間は、私も含めて、呆然となり、わが目を信じられないでいる」と彼は述べた。グリーンスパンは自分の意見を過信し、適切な助言に逆らってしまったのだ。