<意思決定の原則1>自己認識の「歪み」を自覚しよう

 自分はとても有能であるという、バイアスのかかった認識は、適切な意思決定の邪魔をして私たちを脱線させかねない。たとえば、その認識のせいで私たちは、他者の意見が本当は価値があって、より適切な意思決定をするのに役立つときにさえ、それに耳を傾けようとしないことがある。

 他者から得た情報を検討して自分の最終的な決定に反映させるかどうかは、自分の能力と意見にどれだけ自信があるか、そしてまた、助言を受けるコストや直面している問題の複雑さといった微妙な要因のせいで自分の知識や力量に疑問を覚えるかどうかにかかっている。助言を与えたり受けたりするときに、他者の意見の効果や正当性を慎重に検討するのに加えて、こうした要因の影響を考えることで、誰もが恩恵を受けられるだろう。

 ここから、脱線を避けるための最初の原則に行き着く。

〈原則1〉セルフイメージ――自己認識の「歪み」を自覚する

 この原則を適用するには、自分の過去の経験についてよく考え、自分の力量に関してバイアスのかかった認識を持っていたせいで決定が脱線してしまった経緯に気づくことを目指す必要がある。

 製薬会社のイーライリリーの研究開発チームは、この種の活動を行った。ハーバード大学の同僚のゲイリー・ピサノと私は、2004年に彼らに協力したので、それを知っている。

 このチームは、開発プロジェクトに関する重要な意思決定の検討に、新しいアプローチを導入したところだった。その意思決定とは、プロジェクトを次の段階に進めるべきか、それとも中止するべきかだ。長年のうちにチームは気づいたのだが、研究者たちは自分が取り組んでいる薬の将来性について過度にポジティブな予測をすることがあった。画期的な新薬を生み出す自分の能力に自信を持っているからだ。この自信は、過去の成功が原動力になっている場合もあれば、新たな薬に手間も暇もかけてきた結果にすぎない場合もある。

 そこで研究開発チームは、投資についての意思決定を研究者に主導させるかわりに、開発中の薬に個人的な利害関係のない専門家による評価も加味することにした。重要な意思決定をするにあたって、専門家たちはその薬の過去の実験データを参照し、より中立的な見方を提供することができた。チームの意思決定プロセスにこのアプローチを含めることを義務づけ、研究者の評価の潜在的な限界を認めることで、研究開発チームは、自分の力量の認識にバイアスがかかっていると意思決定が脱線しかねないことに対して意識を高める、という第1の原則を見事に実行したのだ。

(続く)

※本連載は、『失敗は「そこ」からはじまる』の一部を抜粋し、編集して構成しています。