未曾有の金融危機はなぜ起きたのか。原因究明なくして、再発防止はありえない。欧米の金融関係者が高く評価する『The Origin of Financial Crises』の著者で、JPモルガンなど大手銀行のストラテジストを歴任してきたジョージ・クーパー氏は、グリーンスパンFRB元議長の過失とその背景にある中央銀行の金融政策思想の誤謬こそが元凶であると指摘する。
ジョージ・クーパー |
―金融危機の原因が、中央銀行の政策ミスにあるとする根拠は?
米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする、主要国の中央銀行は消費者物価指数を長らくインフレの指標としてきた。だが、実際に金融の安定性を左右するのは、消費者物価ではなく、資産価格だ。そのインフレの度合いを金融政策の物差しにできていなかったところに、今回の金融危機の根本的な原因があると思う。モノやサービスの価格という狭い対象にあまりに気を取られていたために、資産価格の巨大なインフレや、その背後にある信用創造の行き過ぎを測り損ねてしまったのだ。
―FRBは具体的にどんな政策を取るべきだったのか。
1990年代半ば、グリーンスパンFRB議長(当時)が株式市場は「非合理な熱狂」に浮かれているとの有名なスピーチを行った。まさにその時、FRBは金利を強引に引き上げてその熱狂を沈める政策を取るべきだった。それによって、過剰な信用創造が抑えられたはずだ。
むろん、景気後退は起こっただろうが、短期間で終わっただろう。だがグリーンスパンは間もなくレトリックを変え、新しいパラダイムだとして熱狂を後押しした。しかも、少しでも経済に不安の兆候が生じると、「リスク管理パラダイム」と称し、市場に資金をすぐさま供給し、経済システム全体が景気後退の痛みを味わうことのないように配慮してしまった。