米国発の遺伝子検査サービス「23andMe」
躍進の背景とは?
米国において、遺伝子検査は、ビジネスとしても拡大の一途をたどっています。昨今では、医療機関ではなくても個人がインターネットなどを通じて専門業者に直接依頼できるようになりました。消費者直結型(Direct-to-Consumer:DTC)の遺伝子検査です。
その象徴的な存在が、米国DTC遺伝子検査サービスの老舗である「23andMe」です。同社を共同で創立したCEO(最高経営責任者)のアン・ウォイッキ氏は、Google社の共同創業者であり技術部門担当社長でもあるセルゲイ・ブリン氏の元パートナーです。2006年に「23andMe」が設立されたのを契機に、米国では遺伝子検査のビジネスが急速に発展してきました。
23andMeの検査サービスというのは、約1万円で「23andMe遺伝子検査キット」を購入し、唾液を自分で採取して返送するだけという手軽なものです。すると、254種類の疾病リスク予測、自分のルーツ(祖先・親戚探し)を判定した遺伝子検査の結果がオンラインで確認できます。
2013年11月に米国FDA(食品医薬品局)から、診断精度への疑問とともに、非常に重要な情報をカウンセリングなしに消費者に提供するなどの問題が認められたため、同サービスの中止命令を受けました。
http://www.fda.gov/ICECI/EnforcementActions/WarningLetters/2013/ucm376296.htm
その後、23andMeは、ビジネスを拡大し、製薬企業や政府との共同研究事業を開始しました。大手製薬会社ファイザーやバイオテック企業のパイオニアであるジェネンテック社など多くの企業と共同研究契約を結んだほか、米国立衛生研究所(NIH)から約140万ドルの研究費も獲得するなど官民との協力体制を広げ、パーキンソン病に関する研究成果など、既に30以上の論文を発表しています。
この間に遺伝子サービスでは海外進出にも成功し、2014年10月にカナダ、そして同年12月イギリスで事業展開を開始しています。ついに米国でも、2015年度中にサービスが再開される可能性が噂されています。
同社のホームページによると、すでに80万人以上の顧客の遺伝情報を蓄積しているといいます。23andMeの長期的な目的は、大量の遺伝情報を集めて大規模な「バイオデータバンク」を作って特許を取得し、製薬会社などに、ビジネスの目的のために情報を販売したり、特許収入を得られる体制を構築することです。実際、今後の疫学研究においては、世界中の研究者が23andMeのデータを購入し、利用する可能性があります。
http://massgenomics.org/2015/02/the-value-of-the-cohort-23andmes-research-portal.html
そして、その目的達成も絵空事でなく、現在までに蓄積された80万人以上のうち、80%は研究の参加に同意しているそうです(参加者内訳;人種: 77%ヨーロピアン、10%ラテン、5%アフリカ、4%アジア、2%南アジア/性別:52%男性、48%女性/がん患者:3万3000人/健常人コントロール40万5000人/アルツハイマー危険因子保有者(ApoE E4):12万人/パーキンソン病患者:1万人/自己免疫性疾患:1万人)に。これほどの支持を得られたのは、楽しく遺伝学を学び、自分の遺伝情報を知る有用性を前面に押し出してサービスを紹介してきた成果なのでしょう。ただし、その遺伝情報のプライバシー保護が懸念されています。