日銀の黒田総裁と安倍首相の間にすきま風が吹いている。2月12日の経済財政諮問会議で黒田総裁は発言を求め「財政の信任が揺らげば金利急騰のリスクがある」と首相に直言した。金利急騰とは国債暴落のことだ。毎月8-10兆円もの国債を買いまくる日銀の総裁が「暴落リスク」を口にして、首相に財政健全化を訴えた。耳の痛い話は聞きたがらない、といわれる首相はどう受け止めただろうか。既定路線だった消費税増税を先送りしたのは首相である。
奇妙なことに、諮問会議の議事録には、この緊迫した場面は載っていない。公式には発言は無かったことになっている。政府の中枢でいったい何が起きているのか。
オフレコ発言に日銀総裁の危機感
米ムーディーズの国債格下げが鳴らす警鐘
経済財政諮問会議は政府側から首相、官房長官、財務相、総務相、経産相、経済財政担当相それに日銀総裁の7人。民間委員として伊藤元重東大教授、榊原定征経団連会長、高橋進日本総研理事長、新浪剛史サントリー社長の4人、計11人で構成される。首相を議長役に財政を軸とする経済政策の指針を議論する。副大臣や事務方の役人が傍聴し、総勢30人余が列席する会合だ。
参加者などの話によると、黒田総裁は自ら発言を求め、米国の格付け会社ムーディーズによる「日本国債の格下げ」に触れ、日本の財政に市場から懸念が出始めていることを指摘した。
格下げは「財政赤字の削減目標の達成に不確実性が増した」というのが理由だ。消費税増税の先送りを受けて発表された。平たく言えば、借金を返そうという姿勢が怪しい、ということである。日本国の信用は中国・韓国より低くなった。「この道しかない」と突き進む安倍さんに、市場が放ったカウンターパンチともいえる衝撃だった。
市場で日本国債はそこまで危ぶまれている、とリスクを語る黒田総裁。首相は「ムーディーズによく説明して理解してもらえばいい」と応じた。
「説明しても彼らは格下げする時は、こちらの言い分に関係なく格下げする」
市場は政府の思い通りにならないことを黒田は強調した。