大石 別の杜氏さんをヘッドハンティングするとか、他の手はお考えにならなかったんですか?
桜井 もちろん、当初は新たな杜氏も探して、これぞと思った人物も見つかったんです。でも、すでに高齢でいらっしゃったし、「だったら、いっそのこと自分たちだけでやってみよう」と決断しました。
大石 実行しちゃう所がスゴいですね。それが奏功して、今の<獺祭>があるわけですし。「初代が創業して2代目で傾き、3代目が潰す」という企業のセオリーも見事に覆されて、ステキッ!
桜井 いやホント、子どものころから「売家と唐様で書く三代目」と言われ続けてきましたし、実際に厳しい局面は幾度となくありました。杜氏に逃げられたことにしても、地ビールレストランの経営に失敗して大損したのがきっかけですから。ただし、厳しいときこそチャンスがあるとも思ってます。困っているときというのは、何か矛盾が隠れているからだし、大体はうまくいっているのに最後のボタンの掛け違いということも多いから、成功へのヒントがあるはずなんですよね。
大石 確かに、うまくいっていない時は、自分を見つめ直すチャンスですよね。
桜井 あと私、運はいいです(笑)。
大石 私、宗教は信じていませんけど、神様を味方に付けるというか、選ばれし者の持つ運の強さを桜井さんはお持ちなんですね。あやかりたい!
ドラマも酒も、マスの評価から
目を背けられないが…
大石 次の挑戦として、<獺祭>の直営店をパリに出されるとか。
桜井 許認可の問題やら紆余曲折があって当初の計画より遅れていますが、今年の秋頃までには、パリの人たちに美味しい料理とともに<獺祭>を味わっていただける店が出せそうです。
大石 どうして「パリ」なんですか?
桜井 いわば“食の甲子園”だと思っているんです。ここで勝てなきゃ、ローカルな球場で1勝して慢心していても意味はありません。納得がいくまでとことん突き詰めた私どものこだわりの味を、パリの人たちにも広く認めていただけたら嬉しいですね。
大石 日本の味でそのまま勝負される、というのは反応が楽しみですね。
テレビドラマでは、私自身が納得できる内容をめざすのと同時に、特にマス(大衆)に受け入れられるものでなければなりません。その両立が面白さであり難しさでもありますが、日本酒造りの場合も通じる部分はありますか。
桜井 最終的に、マスから評価されなければ報われない、という点は同じではないでしょうか。マスに受け入れられるものでなければ、絶対的に優れた酒とは言えないと思います。ただし、最初からマスを狙っていくと、えてしてロクなものはできません。いわゆる“迎合”ではダメですね。