訴訟が起こり始めた米国でも、
遺伝情報差別はまだ広く知られていない
例えば、 米コネチカット州にあるエネルギー会社の従業員だったパメラ・フィンクさんのケースがあります。パメラさんはMXenergyという会社で4年間働き、社内で非常に高い評価を得ていたといいます。
パメラさんの2人の姉妹は、乳がんに罹患していたことから、パメラさん自身も家族性乳がんの原因遺伝子の変異の有無を調べようと、遺伝子検査を受けました。その結果、パメラさんは2009年にBRCA2遺伝子の変異を知り、乳がん発症予防のため乳房切除術を受けることを決めました。パメラさんはこの件について、それまで常に彼女をサポートしてくれていた上司に打ちあけ、医療休暇を取りました。
ところが、パメラさんが手術後に職場に復帰すると、状況は一変してしまいました。責任のある仕事を奪われ、仕事の評価は低くなりました。最終的に同社は、パメラさんには仕事の能力に問題がある、という理由で彼女を解雇しました。
パメラさんは、コネチカット州の人権と機会に関する委員会(Commission on Human Rights and Opportunities:CHRO)と、EEOCとともに訴訟を起こしました。彼女が主に主張しているのは、「遺伝情報のために解雇された。雇用者はGINAに違反している」という点です。会社側はこの主張を否定していますが、本件はGINAの下に起こったコネチカット州初の訴訟であり、今後の判定に多くの注目が集まっています。
http://ideas.time.com/2012/02/20/can-you-be-fired-for-your-genes/
EEOCへの「遺伝情報差別」の訴えは、2010年201件、2011年245件、2012年280件、2013年333件、2014年333件と、年々増えています。ただし、例えば2014年をみると、EEOCに訴えられた雇用差別全体の8万8778件に対して、遺伝情報差別は0.4%です。多くの米国人は、まだGINAや遺伝情報差別を知りません。今後、遺伝子検査の利用者が増加するのに伴い、EEOCへの訴え、そして遺伝情報差別を担当する弁護士も増えるものと予想されます。
認知が低いこと以上に、GINAは重要な問題点を抱えています。保護の対象が、健康保険と雇用に限られており包括的でないことです。