GINAの保護対象が限定的なために
広がっている問題

 生命保険(Life Insurance)や所得補償保険(Disability Insurance)、長期介護保険(Long Term Care Insurance)には適応されないのです。この点は、2015年1月29日付けの、医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」で、ハーバード大学医学部遺伝学者のロバート・グリーン教授らがGINAの問題を、以下のように分析しています。

 ウェブベースの米国人1479人を対象にした調査で、79%がGINAに「まだなじみがない」という回答でした。また、「よく理解している」と答えた人のうち、44%が健康保険において、31%が雇用において、GINAが遺伝情報差別から保護することを知っていました。ところが、23%は生命保険や所得補償保険、長期介護保険にもGINAが適応すると誤解していたのです。

 さらに驚くべきことに、GINAの説明を読んだ後、回答者の30%が差別について「いっそう不安を感じる」と回答したといいます。

 差別への不安は、臨床研究への参加も躊躇させます。たとえば、米国で進行中のMedSeqプロジェクトは、参加者の全ゲノム配列が電子医療記録に蓄積されます。希望者に研究参加への同意を確認する際、GINAについて説明すると、そのうち25%は参加後に受けるかもしれない保険の差別に不安を感じて辞退しました。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1404776

 また、グリーン教授は、アルツハイマー病になりやすくなる遺伝子素因を持つことを知っている人たちの行動を調査しました。その結果、遺伝子素因を持つ人は、持たない人と比べて、長期介護保険に加入する可能性が5倍も高くなりました。さらに、アルツハイマー病の遺伝子素因を持つ多くの人が、より高い保険料を払うこと、加入を拒否される可能性を懸念していることも分かりました。

http://www.genomes2people.org/reveal/

 保険会社としては、保険加入の審査などのために遺伝情報を求めたいでしょうが、保険の加入を希望する人は、生まれながらもった遺伝情報によって、保険が得られないのはフェアではないと主張するのは当然だと思います。

 こうした問題を解決するために、カリフォルニア州など一部の州では、生命保険、所得補償保険や長期介護保険に関しても適応対象を広げています。