大衆薬は、サプリメントや健康食品に押され、市場の縮小傾向が続いている。ところが、ここに活路を見出しているのが小林製薬だ。

 同社は、2007年1月1日、創業当初から手がけていた医薬品卸事業を業界トップのメディセオ・パルタックホールディングスに譲渡し、連結対象からはずした。2008年3月期は売上高は11%減少するが、一方で営業利益は2.6%の増益を見込むという。その原動力となったのが大衆薬である。

 同社の大衆薬事業の売り上げは、198億円(2007年3月期)。2006年に発売したメタボリック症候群向け医薬品「ナイシトール」は前期で年間35億円を売り上げるまでに育っているが、大衆薬メーカーとしては中堅どころにとどまる。しかし、小林豊社長は「大衆薬はまだまだ伸ばせる有望事業」と言い切る。

 その秘策の一つがM&A戦略だ。じつは小林製薬はこれまで、売りに出された中外製薬の大衆薬事業(ライオンに譲渡)やゼファーマ(第一三共が買収)の買い手として手を挙げてきた。旧カネボウの事業売却の際も、薬品部門だけの分離買収案を提示したが、ことごとく縁がなかった。

 「M&Aに積極的に取り組む姿勢には変わりはないが、大物狙いだけではなく、小さい案件でも確実に育て上げていく」(小林社長)

命の母
既存商品(右)の「命の母」のパッケージを変え、更年期を前面に打ち出した

 現に、2005年にブランド買収した「命の母」は、当時の売上高は3億円程度だったが、初年度で大衆薬のヒットの目安といわれる10億円の売上高を突破した。更年期のクスリであることを明確にアピールしコマーシャルを積極的に投入、更年期薬市場をがっちり押さえた。

 「ブルーレット置くだけ」に代表される巧みなネーミングとニッチ戦略で知られる小林製薬は、大衆薬でも同様の手法を取り、奏功したといえる。

 前述のナイシトールにしても、「防風通聖散」という成分自体は漢方薬で一般的なものだが、メタボリック症候群を前面に出したことからヒットにつながった。

 2007年9月に発売した耳鳴り用薬品「ナリピタン」にしても、処方そのものは新しくないが、新市場開拓に自信を見せる。

 「罹患率が低いが潜在力が大きい市場が狙い目。埋もれているクスリを検索する専門部隊を開発チームに置いている」と、小林社長は明かす。

 巧みな商品戦略に加えて小規模なM&A戦略にも貪欲な姿勢を見せる小林製薬。低迷する大衆薬市場に一石を投じそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 大坪稚子)