1993年に発足し、現在は27ヵの加盟国を擁するEU(欧州連合)。長らく、米国、日本と共に世界経済を牽引する「三大軸の1つ」として位置づけられて来た。しかし、世界的な景気後退不安が蔓延するなか、ここにきてついに同地域の経済にも顕著な失速トレンドが見え始めている。
世界経済の覇権構造が大きく変わるなか、EU経済はいったいどこへ向かうのか。その方向性を考えてみよう。
そもそも、欧州の主要国を端的に言い表すならば、それはさながら“お月さま”のような存在である。ドイツ、フランス、イタリアといった老舗諸国は、いずれも長い歴史を誇る成熟国だ。各地域の伝統的分化を重視しながら、地味ではあるがしっかりした生活のペースを守りながら時を重ねている。
しかし、その特性から、国全体が持つ政治的、経済的エネルギーが安定しているものの、目を見張るような高い成長を遂げることは難しい。自国のバイタリティーだけで大きく輝くことができないため、他国や他地域が太陽や惑星のように輝いて光を発すると、「その光を反射して自分たちも元気になる」傾向がある。だから欧州諸国は、世界のなかで衛星的な存在、“お月さま”と考えればわかり易いのである。
EUは歴史的に世界の「衛星的な存在」
“お月さま”効果で経済を拡大
その「立ち位置」は、彼らのこれまでの歴史を見ても明らかだ。
冷戦時代、欧州諸国は米ソ両陣営に挟まれる格好で、NATO(北大西洋条約機構)という米国を柱とする集団安全保障体制のなかで「安定」を手に入れた。ところが、ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊し、旧共産圏の軍事同盟(ワルシャワ条約機構)の脅威が薄れると、欧州諸国が安全保障を米国に依存する必要性も薄れてしまった。
それと同時に、EU(欧州連合)が誕生し、かつて共産圏だった東欧諸国が西ヨーロッパのカテゴリーに入って来たわけである。米国の助けが要らなくなるわけだから、欧州諸国は今までのように米国に気を使わなくても済むようになった。当然、国際的な発言力は増すことになる。これは、彼らが“お月さま”的な立場にあった効用と言えるだろう。
一方、経済面でも、米国や新興国の経済成長によって輸出が伸びた恩恵を受け、EU諸国の景気は堅調な展開を維持してきた。また、EU自体が東に進み、新興国のカテゴリーである旧東欧諸国が自分たちの経済圏に入ってきたことも、大きなプラス要因として働き始めた。むろん、これも“お月さま”効果と言える。
このような“お月さま”効果に加えて、英国、スペイン、フランスなどで米国に匹敵する不動産バブルが発生したことが、景気拡大にさらに拍車をかけてきた。
しかし、最近のEUはどうか。詳しくは後述するが、世界経済全体にブレーキがかかったため、これまでの“お月さま”効果の「裏返し現象」が顕在化しているのが実情なのである。