人類の進化は
恐竜のおかげだった?

 本書を読んで感じることは、いま地球で全盛を誇っているほ乳類が優れているとは、一概には言えないということです。例えば、最大のものでは全長30メートルを超えるスーパーサウルスという恐竜は、後にも先にもこれほど巨大な生物が陸上に存在したことありません。スーパーサウルスはとても長い首を持っていました。どうやって呼吸をし、全身に酸素を供給していたのでしょうか。それを実現するために、「気嚢(きのう)システム」という高性能の呼吸システムを持っていたと考えられています。現在の生物で、気嚢システムを持っているのは鳥だけです。ほ乳類にはない高級な呼吸システムを持つことで、巨大な体を支えていたのです。

 二つめは当たり前と言えば、当たり前ながら、過去2億年以上にわたるすべての出来事があってこそ、今の我々があるということです。もし、隕石が衝突せず、恐竜が絶滅しなければ、ほ乳類の進化はいまとは全く違ったものになっていたでしょう。未だ下積みの生活を送っていたかもしれません。恐竜に圧迫され、時にはその餌にもなっていたからこそ、子孫を明日へとつなぐために、卵を産むという繁殖方法から、胎盤を発達させ、母が体内の子どもとともに、危機から逃れるという繁殖方法を生み出しました。

 環境の変化と生物同士の共存と競争関係が、進化を駆動させてきたと言えます。我々人類の祖先は、地球の寒冷化に伴い森林が減少した時代に樹上生活をやめ、草原に進出し2足歩行を始めます。肉食獣の餌食になる弱い存在だった祖先たちは、牙や鋭い爪といった武器を進化させるのではなく、巨大な脳を発達させるという形で進化し、道具を生みだし文明を創造して、地球の隅々まで進出するようになりました。

 我々人類は今や環境に受動的に適応する存在ではなく、環境をも変えうる存在となりました。しかし、依然として変化させた環境の影響から逃れうる存在にはなっていません。そのことが、これからの人類の進化にどのような影響を与えるのかに、思いを致さずにはいられません。

 そうした思いを想起させる1冊でもありますが、進化の足取りをたどり、新たな事実を知ることは、理屈抜きにエキサイティングでワクワクしてしまいます。