クラスアクションが、日本企業にとって有利な理由

ライアン・ゴールドスティン 米国弁護士、クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン外国法事務弁護士事務所 東京オフィス代表。1971年アメリカ生まれ。ハーバード大学卒業後、早稲田大学に留学。日本文化にほれ込み、すでに20年間日本在住。ソニー、セイコーエプソン、日産自動車、スズキなど日本企業の側に立って海外企業との法的紛争解決・法廷闘争を戦う弁護士。「日本人の紛争を好まない文化が、グローバル競争で自らを不利にしている。日本人にもっと戦ってほしい」とエールを送る。カリフォルニア州40歳以下の優秀な弁護士に贈られる「20under40」や日経新聞「今年活躍した弁護士外国法部門トップ10」(2013年)を受賞したほか、企業法務分野では数少ない法廷闘争までカバーする弁護士としてビジネスの世界に名をとどろかせる。知的財産訴訟を中心に、携帯電話機器、インターネットプロバイダシステム、プリンター関連技術など幅広い技術分野の訴訟に加え、国際商業会議所(ICC)の仲裁にも数多く携わっている。東京大学大学院法学政治学研究科・法学部非常勤講師、早稲田大学大学院・客員研究員、慶應義塾大学・成蹊大学客員講師、同志社大学法学部非常勤講師などを歴任。

  また、クラスアクションは、被告である日本企業にとって有利な側面もあります。

 まず、「言葉の壁」があります。
 たとえば、アメリカの原告が、日本企業の製品の欠陥についてクラスアクションを提起したとします。すると、証拠開示手続きにおいて、原告被告双方がすべての証拠を提出することになります。

 ここで、被告である日本企業側が提出する証拠は、製品開発の際に行われた試験結果や製品開発の経過、該当製品に対する他国でのクレームの有無など、膨大な量となります。原告側は、その証拠をすべて英語に翻訳しなければならないわけで、翻訳費用だけでも相当な金額になります。

 一方、原告が提出できる証拠は、製品を購入した際のレシートや取扱い説明書、製品の欠陥が原因で負傷したと主張する場合は医療費の領収書など、ごくわずかなものです。それを、日本語に翻訳するのは、ほとんど負担にはならないのです。 つまり、「言葉の壁」が、日本企業に有利に働くわけです。

  さらに、デポジション(証言録取)というプロセスでも、日本企業が有利となります。

 デポジションとは、アメリカの法廷外で、証人が訴訟代理人である弁護士の質問に答える手続です。そして、日本企業が被告の場合には、デポジションを日本のアメリカ大使館で行うこともできると法律で規定されているのです。

 日本でデポジションを行うことになれば、原告側は飛行機代や宿泊代などを負担して来日しなければなりませんから、そこを逆手にとって、日本企業は証人の数を減らす交渉をすることもできます。しかも、来日したとしても、時差ボケと戦いながら重要な司法プロセスに臨まなければならないわけです。

 これらは事務的な問題で、ささいな問題のように思われるかもしれません。
 しかし、原告にとっては戦う意欲を萎えさせる一因となり得ます。こうしたプレッシャーをかけながら、訴訟を有利に運んでいくことは可能なのです。ビジネスのためにクラスアクションを起こすような弁護士であれば、駆逐できる可能性は高いと思います。

 とにかく、むやみにクラスアクションを恐れてはなりません。
 しかるべき対応をすれば、無用なクラスアクションを回避することはできるのです。