初値が公募価格を上回るのは、
本当は失敗かもしれない

 手元にある4月6日の日経新聞夕刊の新興市場チェックのコーナーでこういう表現がある。「ソケッツ初値、公募価格上回る。新年度、上々の滑り出し」。この見出しからは、初値が公募価格を上回ることが上場の成功であることがうかがえる。

 これは、神戸大学の忽那教授が著書の『IPO市場の価格形成』の「はじめに」でも指摘していることであるが、初値が公募価格を上回ったということは、実はその会社の公募価格はもっと高く設定できたということの裏返しでもあり、企業にしてみると「より多くの資金調達ができたはずなのにし損なった」とも言える。

 初値が公募価格を上回るというのは、公募価格の値付けに失敗したとさえ言えなくもない。

 しかし、初値が公募価格を上回れば企業は喜ぶし、企業が喜べば主幹事証券会社もハッピーである。公募株を購入した投資家は、1日で大きな利益を稼ぐことができてこちらも大喜び。冒頭のソケッツの場合は、初値が公募価格を8割も上回ったので、公募価格を購入できたラッキーな投資家は1日にして何と80%も利益を得ることが可能だったのである(その分、企業は資金調達をし損なったわけである)。

 このように、本来は失敗かもしれないのに、企業、証券会社、投資家と三方みなハッピーという不思議な状況なのである。

企業から一部投資家への
富の移転

 今でこそ市場の低迷ぶりにつられて上場時の初値もそれほどには暴騰しないが、IPO株においては初値が公募価格を上回るのはよく見られる現象である。時期にもよるが7割~9割ほどの可能性で初値が上回る。公募株を入手するほど確実に儲かる手法はない。

 一部個人投資家の間では、この「おいしい」IPO株の割り当ては、証券会社の上客を中心に行なわれているのではないかという批判も出て、結果として一部の証券会社ではIPO株の割り当てを抽選で行っているぐらいの人気ぶりである。

 この状況は端的に言ってしまえば、企業から一部投資家への富の移転ということになる。より高い株価で資金調達をできた企業が、それをしない代わりに投資家が儲かるという構図である。

 本来であれば上場を果たした企業がこの状況に対して怒りを覚え、問題が是正されるはずであるがその気配はない。そこには企業にとっての最重要事項が、調達資金額の最大化ではなく、“上場後の株価の推移”にあるからである。

上場後、右肩上がりの
株価形成が重視される

 実際に主幹事証券会社の現場でも、上場後の株価が右肩上がりに推移するのが良い案件と言われており、一番避けるべきは上場後に株価が右肩下がりになることである。これは、企業が株価が下がることを嫌がるからであろう。