受講者 重さは何キログラムになるんでしょうね……。ところで、アダム・スミスのもうひとつのポイントは何ですか。
米国の金準備は重さにすると8000トン以上になるんだだよ。
さて、アダム・スミス『国富論』の第2のポイントは「分業」です。
スミスが明らかにした「分業」と「市場メカニズム」
スミスは、効率的に生産するための方法として「分業」を取り上げました。『国富論』のなかで彼は、ピン作りを例に説明しています。
スミスは町の小さな工場を観察した結果、約18の工程に分かれていることを知ったそうです。非常に貧しい作業所でしたが、10人の労働者が1日に約12ポンドのピンを製造できました。ピンにして1日4万8000本分でした。1人当たり1日4800本だよね。そして、分業は古今東西で行なわれていたことだけれど、スミスは分業を生産力増進の要因として明確に証明しました。分業は人間だけができたことだと説明しています。生産量を増やし、良い商品を供給すれば買い手の生活も豊かになるというわけです。
では、価格はどうなるのか。これが3つ目のポイント「市場メカニズム」です。
いくら良い商品でも高かったら、売れないし買えない。スミスは、社会の公益を最大にするのは人びとの利己的な行動だとしました。つまり、自由にしておけば自動的に最適な価格と生産量になるーーと考えたのです。
この、人びとの私的所有と利己的な行動がもっとも効率的な経済システム(市場)をつくる、という考え方が「市場メカニズム」の概念です。
言い換えれば、意図して公益を追及するよりも、人びとが自由に取引しているほうが公益を増進する、と言っているわけです。これこそ、政府の市場介入こそ有害、自由放任こそ人びとを豊かにするという古典派経済学の経済観です。放っておけば需要と供給は市場で均衡する、ということです。そして市場均衡の数学的分析を進めた新古典派経済学へ受け継がれていきます。現代主流の経済学の原点です。
受講者 わかった!「神の見えざる手」ですね。
そうです。ただし、原文に「神の」とは書いていない。単に「見えざる手」です。
自分自身の利益を追求すればいい、とスミスは言いますが、『国富論』の17年前に出版した『道徳感情論』(1759)で、利己的な人間による社会の秩序について書いています。ポイントは、市民社会はばらばらの個人で構成されているが、そこには「共感(シンパシー)」が存在している、ということです。共感とは他者の気持ちを理解するモラルでしょう。利己的だが共感によって秩序が存在する、というわけです。