野田 全人格的要素はいかがですか? これも先天的に備わっている資質のような印象を受けますが。

高家 全人格的要素は、先天的なものではなく、むしろさまざまな仕事での修羅場や人生経験を積んだ先に、いちばん最後に備わってくるものだと私は考えています。ひと昔前でいうところの「教養」、今でいうと「リベラルアーツ」のようなイメージでしょうか。人として経験を積み重ね、世界観や歴史観が形成されて、それがその人独自の哲学となるので、やはり若いころにはなかなか深まらない。歳月と経験を重ねて、後天的に備わってくるものだと思っています。

T. Usami

野田 先ほど、優れた部下を側近とすることで組織のバランスを保とうとする経営者の話が出ましたが、そうした判断も全人格的要素があってこそかもしれないですね。

優秀なリーダーや経営者ほど、個人として強烈な成功体験を持っています。それを自信にするのはもちろん大切ですが、一方でリーダーが自分の成功体験に固執すると、いつまで経っても次のステージに行けなくて、結果として組織全体が苦境に陥ってしまう。成功体験におごることなく、自分に不足していること、できないことを正しく見極めて、不足を補う人材をそばにおく。あるいは、エゴを捨てて、組織全体のために自分がどう振る舞うべきなのかを客観的に分析して実行する。そんなリーダーこそが、会社をサスティナブルな発展に導けるのでしょうね。

高家 そんな人間的魅力に溢れたリーダーに対しては、部下も尊敬して信頼感を持ちます。結果、その組織は、どんな苦境に直面しても一丸となって動ける強靭な組織になるのです。

野田 ただ、自分の成功体験に固執しないとか、組織全体のために自分の仕事や権限を部下に委譲するとかって、いざ自分がそうしなければならない立場になると、意外と難しいですよね。われわれコンサルタントがたずさわるクライアントワークも失敗が許されないので、つい部下に対してマイクロマネジメントをしがちになります。まさに「言うは易く行うは難し」です。最後は責任を取るつもりで部下に任せるということは、実は勇気がいることですね。

高家 私もそう思います。それゆえ、3つ目の全人格的要素こそが、“一流のリーダー”という頂へ上がるための最後の一歩みたいな気がしているんですよ。

(対談了)