高家 同感です。このタイプは、ときに偏執狂的な一面も見せますよね。そして3つ目が、全人格的要素です。決断・行動において経営的な面だけでなく人間としての哲学のような軸を持ち、背景にその人の歴史観・世界観を感じさせ、まさに人間的な魅力に溢れ尊敬され信頼されるリーダーです。いわゆる「名経営者」と呼ばれる人に多いのではないでしょうか。

そして大事なことは、この3つの要素が別々の人格からではなく、一人の人格から発露されるということだと思うんです。それが一流の経営者だと。

野田努(のだ・つとむ) 1988年慶應義塾大学経済学部卒業。ハーバード・ビジネス・スクールMBA取得。日本長期信用銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニー、米国KPMG、ユニゾン・キャピタルを経て、2007年よりアリックスパートナーズに参画。現在同社マネージングディレクター、日本共同代表。今年5月に初の著書『プロフェッショナル・リーダー』を上梓。

野田 その3つの要素は、会社が置かれている状況に応じて、相対的にどれが強く表に出てくるのか決まるのでしょうね。

高家 そう思います。実際、私がミスミの経営トップでいた約6年間も、そのときどきの状況に応じて、さまざまなリーダーとしての要素が求められました。

社長に就任したときはリーマンショックによる世界不況が始まったタイミングだったため、まさに有事を乗り切るためにプロのマネジメントスキルを駆使し、スピード感を持って攻めから守りに舵を切る経営が必要でした。その後、会社の業績が再び成長戦略を実行できる状態まで回復すると、戦略的な買収や新規事業の立ち上げなど、今度は有事とは異なるマネジメントスキルだけでなく、強烈に事業を成長へ向けてドライブするアントレプレニュアルな要素が求められました。

野田 そうした多面的な要素を、一人の人間が発揮しなければならないところに、一流のリーダー、一流の経営者になる難しさがありますね。

高家 それゆえ、時にすべての要素を自分が発揮するのではなく、優れたパートナーや部下と分担することで、バランスをとるケースもあると思います。

先ほど話に出たスティーブ・ジョブズも、自分が才能にあふれカリスマ性を備えたリーダーだと自覚していたでしょう。かといって自分一人ですべてを担おうとはせず、ティム・クックのような異なるタイプの人間をそばにおいて、チームとして会社を引っ張っていたのではないでしょうか。日本では、ホンダの創業者である本田宗一郎さんと藤沢武夫さんのような。

野田 自分が持っていないスキルを素直に認めて、その足りない部分を有能な部下に補ってもらうという自己認識と意思決定ができることも、優れたリーダーの条件のひとつかもしれないですね。