「アパート経営」ビジネスを通じて
社会的課題の解決へ

「住」の確保は、さまざまな可能性を生み出す。

「今、生活保護受給者のうち、住宅扶助を利用している方は185万人くらいです。その方々が仕事を探すには、まず住民登録、住民票が必要です。でも簡易宿泊所のような仮住まいでは、住民登録ができないんです」(稲本さん)

 ホテル・旅館・簡易宿泊所・ウィークリーマンションなどの一時宿泊施設、ネットカフェや『脱法ハウス』のように宿泊施設でさえない施設、会社の事務所などを「住所」として住民登録を行うことは、原則として不可能だ。簡易宿泊所を「住所」とした住民登録を可能にしている自治体もあるが、あくまで、その自治体の独自判断である。

「生活保護の方が、ちゃんとアパートに入居できて、住民登録ができて、住民票も取れるようになれば、仕事探しへの支援もできることになります。だから『社会貢献』なんです。『部屋が余っているから貸してあげる』という発想は、よくありません。だから、ガイドブックで生活保護の『住』のルールを示して、利用できるサービスも示して『大家さん安心でしょ、だから貸してあげましょうよ』という呼びかけをしたわけです」(稲本さん)

 今後、どのような展開が期待されるだろうか?

「貧困ビジネス・ネットカフェ・簡易宿泊所など、本来は住居ではない、ましてや福祉事務所が紹介すべきではないところに住む生活保護受給者が減り、『住まい』といえる住まいに住む受給者が増えます。すると就労活動もしやすくなるので、納税者が増えます。このガイドブックには、受給者の生活レベルが上がったり改善されたりして、受給者が納税者になれる仕組みを世に提示するという意義があると思います」(稲本さん)

 住だけでは、雇用にはつながらない。生活保護を必要とする人々のほとんどは、身体的には健康であっても、何らかのハンデを抱えている。まず、ハンデを抱えた人々に対する雇用状況の改善が必要であろう。しかし「健康で文化的な住」の確保は、何にも優先されるべき目の前の課題だ。

「ガイドブックを作ったことを発表した直後から、全国の福祉事務所から、『どうすればお部屋を紹介してもらえますか』という問い合わせをいただいています。今年10月からは、『生活保護 母子』というふうに検索すると大家さんの了解を得た物件が表示される検索サイトを、自治体で使ってもらえるように準備しています」(稲本さん)

 川崎の簡易宿泊所の火災では、定まった住所のない生活保護受給者に対し、福祉事務所が簡易宿泊所を紹介していたことも問題とされた。しかし、生活保護利用者の入居可能なアパートを容易に探せないことが、そもそもの原因である。

「自治体も福祉事務所も、大家さんも、受給者も困っている状況を、少しでも良くしようと思って活動しています。『貧困ビジネス』で目的外の「住居」を提供するような悪い業者さんは、儲からないほうがいいんです。悪い業者さんのお客さんが減って、良心的な人たちのお客さんになるという流れができて、回ればいいと思っています」(稲本さん)

 営利を目的としたビジネスは、ニーズに応じることの連続によってしか継続できない。社会的弱者のニーズに対し、正当なビジネスとして、より多くの選択肢を提供する方向性には、今後も数多くの可能性がありそうだ。

 次回は、子どもの貧困についてのレポートを予定している。学校のサポートが受けられない夏休み、貧困状態にある子どもたちは、どのようなサポートを必要としているのだろうか?