佐和 そもそもデータサイエンス学部では、文科省が「真の学力」と呼ぶ思考力、判断力、表現力を身につけた人材の養成を目指します。第一に、言語ですね。日本語だけでなく英語も含めて、言語の教育は欠かせません。第二に、数学的なリテラシーです。これは論理的思考力を身につけるために必要です。それから第三に、データリテラシーです。思考し、判断し、その結果を表現するに当たり、データを使うと説得力が増します。その3つを備えることが、まさに文科省のいう「真の学力」を身につける必要条件みたいなものです。
坪井 そのうえ、竹村先生のような芸術家の統計学者が率いられると。面白くなりそうです。
高校で「経済学常識」が必修の中国に
経済学リテラシーで追いつくには高校教育の強化も必要
坪井 下村(博文)文科相へのインタビュー記事(『日本経済新聞』2015年8月10日付)を読みますと、大臣は今の大学生は昔よりも知的能力が落ちている、要するに教養の力が落ちている、と指摘しているのですが、むしろ問題は高校にあるのではないかとも思います。
最近の弊社の新入社員に聞いてみると、とにかく高校の社会科が貧弱です。まず「日本史」は必修じゃないのでほとんど読んでいません。「政治経済」や「倫社」は「現代社会」とどちらかの選択です。「現代社会」は「政治経済」と「倫社」をくっつけた総合科目ですが、経済思想ではアダム・スミスだけ登場します。選挙権が高校3年の18歳に引き下げられても、政治経済や哲学史(倫社)の基礎がまるで分からないのではないかと危惧します。
佐和 共通一次試験(センター試験の前身)が1979年に導入されて以降、基礎学力をつける科目の幅が狭まりましたからね。理系なら英語と理科と数学しかやらない。文系なら数学は多少やるけれども理科は1科目しか学ばない。共通一次試験が導入されるまでは、国立大学では、文系も理系も英数国に理科2科目、社会2科目が必須だった。国立大学の入試が難しかったから、国立大学生の授業料の半分以上を税金で賄ってもらうことに、誰も文句をいわなかったわけです。昨今の国立大学の入試は、私立大学のそれと大差がなくなり、それが国立大学批判の理由の一つとなっている。偏差値がどこまで信用できるかは別として、有力な私立大学は概ね国立大学を上回っていますよね。
坪井 日本より中国の社会科教科書のほうが経済学に関しては充実しています。「経済学常識」という科目が中国の高校の必修だと聞いて驚きました。ルーズベルトのニューディール政策からケインズ革命、新自由主義、日本・西洋国家の多様な資本主義モデルなど、かなり整理された相当詳しい内容なのです。ですから、中国の高校生のほうが資本主義についてよほど詳しいはず(笑)。
佐和 先頃、中国の株暴落が世界の同時株安を招いたとき、中国政府が元切り下げや金融緩和を矢継ぎ早に打ったため影響を最小限に食い止められたと思うのですが、こういう政策が打てるのは社会主義市場経済のメリットですね。2008年のリーマンショックのときも、円換算で50兆円の財政支出により、世界同時不況の深刻化を防いだ。おそらく、高校生の時に中国人はこれだけ経済について勉強しているからこそ、官僚や政治家も経済のことをよく分かっているんでしょうね(笑)。
坪井 日本の高校では経済を分かりやすく教えられる社会科の先生が少ないのでしょうか。経済学部出身者で教員を目指す人もあまり聞かないし。