ネガティブな記憶は、しつこく脳に残る
脳には、ネガティブな情報ほど長く記憶に残す働きがあります。これを心理学では「ネガティビティ・バイアス」と呼びます。
この機能は、もともと人類が進化する過程で、災害や事故などの身の危険から守る防御としての役割を果たしてきました。リスクに特別な注意を払い、それらに敏感になり記憶に長く留めておく脳の機能が発達したのです。
結果として、私たちの脳は、ネガティブな刺激のほうを速く認識するようになりました。
たとえば、誰か人と接する場合も、相手の顔が怒っている場合は、すぐに対応します。何かを口にしたときに、変な匂いや味がしたときには、すぐに敏感に察知します。
人間関係においても、好印象はすぐになくなりますが、悪印象や不信を抱いた相手の記憶は長く残り続けます。悪い体験は、良い体験よりも強力なのです。
心理においては、悪貨は良貨を駆逐しうるのです。脳には顕在記憶と潜在記憶の2種類があります。
顕在記憶は、小さな頃の思い出から数分前に起きた仕事に関する出来事まで、個人的な体験記憶が含まれています。こうした思い出は、昔のものほどポジティブなバイアスがかかっているといいます。
たとえば、旅先での思い出は、実際には移動で体が疲れていたにもかかわらず、楽しい思い出だけが記憶されているといった具合です。
一方で、潜在記憶には、価値観や性向、思い込みや消えずに残っている感情的なものが残っています。それは、いわば言葉にならない過去の感覚なども収めた広大な倉庫のようなもので、それは自分がどう感じるかを決める基盤となります。
重要なポイントは、潜在記憶にはネガティビティ・バイアスがかかることです。かつて味わった恥ずかしさは倍増され、不快な体験は記憶として蓄積されます。努力を重ねてきた仕事が徒労に終わり、自分の力の至らなさを痛感した経験は無力感となって心に残り、自信を高める達成体験を打ち消してしまいます。
ネガティブな出来事から生まれた感情記憶に対抗し、自信を感じられるようになるためには、自分が有能だと思える体験を何倍も味わう必要があるのです。