米国で湧き起こったトヨタのリコール問題にはさまざまな見方があるが、品質をウリにしてきた日本車だけに、産業界に与えるインパクトはきわめて大きかった。

われわれ一般の自動車ユーザーにとっても、自分が乗っているクルマは本当に安全なのかを改めて考え直す契機になっただろう。

 自動車業界に詳しい識者からも、いまこそ、クルマおよびクルマ社会と安全について再考すべきという意見が聞こえてくるようになった。

「だれもが自分のクルマや運転が安全であることを望んでいます。つまり安全は、クルマを論じる上で普遍的かつ最も基本的なテーマなのです」と語るのは、1980年代から自動車の安全問題に取り組んできたモータージャーナリストの清水和夫氏だ。

 清水氏は語る。

「アメリカではタイヤの空気圧低下による横転事故が相次いだことから、2007年よりタイヤ空気圧をモニターするシステムの装着が義務化されました。また、2008年にはクルマの横滑り防止装置も義務化されています。翻って日本は、要素技術は持っているのにアメリカのような安全装備の普及では遅れをとっている。安全への意識をもっと高めるべきでしょう」

 たしかに、最近の自動車業界はエコカーが話題の中心で、マスコミでも安全性が取り上げられる機会が減っているようだ。

 環境や安全の先端技術に詳しいモータージャーナリストの島下泰久氏は、「交通事故が起これば渋滞が発生してCO2排出量が増えるわけで、安全と環境は切り離せない関係にあるはず」と指摘する。

40年間で交通事故死亡者数は3分の1に。
しかし……

 クルマ、およびクルマ社会と安全について考えるにあたって、まずは日本の交通事故の現状を把握したい。警察庁の資料でわかるように、交通事故による死亡者数はこの40年間で約3分の1にまで減っている。最悪の数字を記録した1970年には交通事故で1万6,765人が亡くなっているが、それが2009年には4,914人にまで減ったのだ。

 日本をはじめ、欧米でも豊富な自動車業界の取材経験を持つモータージャーナリストの金子浩久氏は、日本の交通事故死亡者数の減少について、「1990年代半ば以降にエアバッグ、衝突安全ボディといった技術が進化したこと、シートベルト着用が常識になったこと」をその理由に挙げる。

 また、「安全技術とひとことで言っても、『衝突安全技術』と『予防安全技術』があります。安全問題を考える上では、このふたつの違いを理解することが重要」と続ける。