「小が大を束ねる」異例づくしのスキーム

 良品計画は、その後私たちに経済産業省のある事業に応募してみないか、と提案してくれました。

 その事業の正式名称は、「繊維製品リサイクル調査事業」。経済産業省の外郭団体である「中小企業基盤整備機構」が、繊維産業の中期的な育成のために実施した事業です。繊維製品リサイクルシステムを構築するために、現状や課題を整理し、今後の方向性を明らかにすることを目的として立ち上げられました。応募の結果、私たちが落札することができました。

 この調査事業は、大きく2つの柱で成り立っています。

 1つが、繊維製品をいかにして回収するかを検証する事業です。当社のほか、ワールド、良品計画、三菱商事が参加し、ワールドと良品計画の店舗で2009年8月から10月にかけて回収実験を実施しました。

 もう1つの柱は、集めた繊維製品をリサイクルする技術の検証事業です。当社のほか、東レや帝人、新日鐵(当時、現在は新日鐵住金)といった錚々たる大企業が持つリサイクル技術について、その効果や実用性について検証しました。

 私たち日本環境設計は、この事業全体を束ねる事務局の役割も担っていました。

 ワールドや良品計画、三菱商事にしろ、東レや帝人、新日鐵、積水化学工業にしろ、いずれも数千人あるいは数万人の社員を抱える歴史ある大企業です。そうした大企業を、社員3人の小さなベンチャーが束ねるスキームを組めたのは異例のことではありました。

 しかしこのスキームを組めたからこそ、この調査事業の中から、後の私たちの事業につながる「FUKU‐FUKU」プロジェクトが生まれてきたのでした。

「回収」を生活動線の中に
――消費者の心のスイッチを入れる

 消費者は、リサイクルしたがっているし、リサイクルの実感を得たがっている。消費者は、ものを捨てることに罪悪感を抱いている。

 事業では消費者の意識調査も実施しましたが、その結果、こうした消費者の本音が明らかになりました。

 捨てる罪悪感から消費者を解放し、リサイクルしたがっている消費者の気持ちにスイッチを入れること。それが、リサイクルを事業化するうえでの大きなカギだと、このときの調査結果から確信を持つに至ったのです。

 では、消費者の気持ちにスイッチを入れる役割を果たすものは何でしょうか。

 それこそが、店頭にある「回収ボックス」です。

消費者が普段買いものに行く場所が回収拠点だから、消費者は気軽にリサイクルに参加できる。リサイクルしたい気持ちが触発される。

 さらに、お店ごとにバラバラだった回収の動線や回収ボックスが1つのブランドで統一されていれば、より利便性も高まる

 消費者の「生活動線」の中にリサイクルの「回収」を組み込むことで、それが「環境動線」につながる。そういう意味でも、小売店での店頭回収は理にかなっていたのです。

 もう1つ重要なポイントは、それが小売店にとっても十分なメリットをもたらすということです。なぜなら、意識調査で判明したとおり、「リサイクルしたい」という消費者のニーズに応えることにつながるからです。

リサイクルしたがっている消費者と、その気持ちに応える小売店。そのどちらにもメリットがある。その好循環が、リサイクルの輪を回すエンジンになるのです。

小売店の店頭で回収する、という事業モデルにたどり着いた岩元氏。しかし創業数年の小さなベンチャーがリサイクルという「インフラ」を実現させるには、ある「ありえないアライアンス」を実現させる必要がありました。果たしてその驚くべき交渉の実態とは?(次回は11月2日公開予定)