背に腹は代えられない──。アステラス製薬による米OSIファーマシューティカルズのTOB(株式公開買い付け)価格引き上げである。結果、1ヵ月半も停滞した買収交渉は合意に至った。
買い付け価格は、当初提示した1株当たり52ドルから、10%強上乗せした57・5ドルに引き上げられた。買収総額は35億ドル(約3200億円)から40億ドル(約3700億円)に増える見通しだ。
売上高1兆円弱のアステラスにすれば、巨額を投じてでも手に入れる必要があった。2008年以降、主力薬の特許切れが相次いだからだ。臓器移植を受けた患者に不可欠の免疫抑制剤「プログラフ」、高齢者のニーズが高い排尿障害薬「ハルナール」は共に減収が見込まれる。前期だけで売上高は前者が09年度比12%減の1636億円、後者は同41%減の673億円に落ち込んだ。
売上高約380億円のOSIが、本格的に営業利益に貢献できるのは14年度頃にはなる。それでも、すでに販売中の肺ガン治療の経口薬「タルセバ」をはじめ、ガン領域などの開発薬は魅力だった。
株価はTOB開始直後に高騰、合意価格に近い57ドル以上で推移した。背景に2つの理由が浮かぶ。
一つはTOB発表直後、OSIの株主であるオービメッド・アドバイザーズのパートナー、サミュエル・アイザリー氏が「15%程度低い評価」と発言したこと。トップアナリストである同氏の発言は株式市場に大きな影響を与える。もう一つは、OSIが米証券取引委員会に提出した資料から、アステラスが昨年2月に買収提案した際の提示額が1株55~57ドルだったと明らかになったこと。“適正”価格か否かは、タルセバに続く新薬開発の成否次第。経営手腕が問われる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 柴田むつみ)