しかし、「収入認定」は長年、生活保護利用者の就労意欲に悪影響を与えていると指摘されてきている。生活保護から脱却すると、税や社会保険料も支払わなくてはならないし、医療費の自費負担も発生する。「生活保護から脱却することの不安から、就労努力が充分に行われないのでは?」という見方もされてきた。

 このため改正生活保護法では、収入認定した収入を「仮想的に積み立て」ておき、生活保護から脱却したときに「就労自立給付金(上限額は単身世帯で10万円)」が支給されることとなった(参考:厚労省「生活保護法改正法の概要」3ページ)。新設された就労祝い一時金の効果は、現役の生活保護ケースワーカーであるAさんから見て、どうだろうか?

「自分が担当している方々の中には、まず、対象になりうる方がいません。生活保護世帯100世帯に1世帯、対象になる世帯があれば、良い方だと思います」

 むろん、就労活動そのものを支援するための現金支給メニューも同時に用意された。改正生活保護法のもと、各自治体は「被保護者就労支援事業」を開始している。たとえば東京都墨田区では、被服等(スーツ代など)2万5000円、教材費1万2000円、携帯電話購入費2万円、連帯保証費5万円などの項目が用意されている(参考:墨田区被保護者自立促進事業実施要綱)。また、就職活動を行うことによる出費の増加に対しては、1ヵ月あたり5000円の「就労活動促進費」も用意された。

 いずれも給付に関しては「継続する保護期間中1回限り」「前回の支給から次の支給までは◯年」などの条件が設けられている上、受給資格は「早期に就労による保護脱却が可能と福祉事務所が判断する者」が「自立活動確認書に基づき決められた求職活動要件を満たしている」場合に限られており、制約は大きい。それでも「生活保護利用者が就労活動をする」は、「生活保護利用者が就労して生活保護から脱却する」よりも可能性が高そうに見える。Aさんの職場でも、若干は役立っているのではないだろうか?

「役に立つか立たないかというより、自分の担当している生活保護世帯の中には、そもそも対象者が一人もいません。自分の受け持ちだけではなく、この福祉事務所で担当している生活保護世帯、約3000世帯に『早期に就労による保護脱却が可能』と判断できる方が一人もいないんです」

 対象者がいないのでは、制度の良し悪し以前だ。思わず、「非実在生活保護利用者に対する、エア就労支援プラン」という笑えないジョークを口走りそうになってしまう。問題は、該当する生活保護利用者像に当てはまる該当者が実際には「非実在」であり、就労支援プランが「利用者がいない」という意味で「エア」であるとしても、組織や人員や予算は「非実在」や「エア」ではないことだ。

 2000年以後、公費の支出削減の必要性が「財政健全化」のもと強調され、公共のあらゆる場面で予算カットが進みつづけているというのに、なぜ、このようにチグハグなことが起こってしまうのだろうか?

「結局、国には現実が見えていないんだと思います。2012年ごろ、片山さつき(参院議員)さんが『働けるのに働かずに生活保護を受給している人が30万人も』と繰り返していましたけど、そんな問題じゃないんです。片山さんに現場でケースワーカーやってもらって、お手並み拝見したいです。もちろん皮肉です」(Aさん)