産業革命以来の「シフト」

世界銀行のエコノミストのブランコ・ミラノビッチは、世界の格差を詳しく調べ、「世界の社会階層に、産業革命以来の重大な再編」が起きているという結論に達した。

最貧困層は泥沼にはまり込んでいるが、それ以外の貧困層の暮らし向きはよくなった。新興中間層の実質所得は、年間3%も伸びている。これに対して西側諸国では、中間層(世界的には所得上位25%に入る)の所得はほとんど伸びていない。その一方で、上位1%の所得は著しく増えて、上位5%の所得もそこそこ増えた。

つまりミラノビッチによれば、グローバル化により世界の所得上位25%の間で二極化現象が起きている。そしてトップ1%の最富裕層がダントツの勝ち組になっている。これは一般的な感覚とも一致する。だから西側諸国の中間層が、新興国の中間層よりはるかに暮らし向きがいいのに、自分たちは停滞または衰退していると感じるのは決して不思議ではない。

先進国だろうが途上国だろうが、中間層はもっと豊かになりたいと思っている。これは(少なくとも私が定義するところの)中間層の普遍的価値観だ。だからこそ西側の中間層にとって、所得の伸びが頭打ち状態にあること(それには多くの理由がある)が、大きな悩みになっている。他人の暮らしはよくなっているように見えるのだから、なおさらだ。途上国における中間層の拡大で、アメリカの中間層は影が薄くなるだろう。また、経済成長の鈍化で、西側諸国の中間層は雇用市場(高技能職を含む)でもグローバルな競争を感じるようになるだろう。

北米とヨーロッパでは向こう20年間、中間層の消費が年0.6%しか増えないとの推測もある。一方、アジア開発銀行によると、アジアの中間層の消費は2030年まで年9%のペースで増えそうだ。

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マシュー・バロウズ(Mathew Burrows)
米国の最高情報機関であるNIC(国家情報会議)の元分析・報告部部長。直近の2号である『グローバルトレンド』(2025/2030)で主筆を担当。ウェズリアン大学(学士号)とケンブリッジ大学(博士号)で歴史学を学ぶ。1986年にCIA入局。2003年にNICに加わる。28年に渡って国家情報アナリストとして活躍。リチャード・ホルブルック国連大使の情報顧問を務めたこともある。2013年に辞任し、現在は「アトランティック・カウンシル」戦略フォーサイト・イニシアチブ部長を務める。ワシントン在住。