なぜ、積みわらだけで30枚も描いたのか

『積みわら』1891年、ボストン美術館
『積みわら、雪融け、日没』1891年、シカゴ美術館

山田 でも、適当につけたタイトルから悪い意味で使われた「印象派」という呼び名が、実は意外にも彼らの本質をいい意味でもとらえていたんですね。以後、彼らの展覧会は印象派展と呼ばれ、1886年の第8回まで続きました。

『積みわら』1890-1891年、シカゴ美術館
『積みわら』1891年、個人所蔵

ただ、一口に印象派といっても方向性は十人十色。モネの場合、1883年にジヴェルニーという田舎に引っ越してからは、同じものを何度も描く「連作」に没頭していくんですが、ちょっとどうかしてるんですよ。最初に描いたのが、積みわらのシリーズなんですけど。

『積みわら、晴天』1891年、チューリッヒ美術館
『積みわら、雪の効果、曇天』1890-1891年、シカゴ美術館

これ、おもしろいですか?

こやま おもしろくはないですね(笑)。
まあ、キレイですけどね。

山田 バルビゾン派の画家たちは「地味な農作業を描いて何がおもしろいんだ」と叩かれましたが、これはもう、農作業ですらないただのわら。それを飽きずに何枚も何枚も。この積みわらの連作だけで、たしか30作ぐらいある。

こやま なんでそんなにこだわったんでしょうね?

山田 実はモネが描きたかったのはわらではなく、光と色彩だったから。同じ対象を描き続けたのは、光と色彩の移ろいをとらえたかったからなんです。

こやま ああ、なるほど。
わらがあることでちょっと違いがわかりますもんね。

山田 光と色彩の移ろいがとらえやすければ、対象は何でもいいわけですよ。積みわらの次はポプラ並木。さすがに地味すぎると思ったのか、次は建築に行って、ルーアンの大聖堂やロンドンの国会議事堂。いずれも、よく飽きなかったなぁと感心するほど、何枚もの連作を描いています。

こやま ずっと同じことやるのが好きな人なんですね。