最初は、「タイトル通り印象しか伝わってこないだめな作品」
と酷評された
山田 筆触分割のもうひとつの革命的なポイントは、絵の具を混ぜずチューブから出したままの色で使ったこと。混ぜて色をつくるのではなく、見る人の脳内で色が混ざる「視覚混合」を利用するわけです。今日の4色カラー印刷と同じ原理ですね。なぜそうしたかというと、ひとつには明るさの問題です。絵の具は混ぜれば混ぜるほど色が濁って暗くなる。でも印象派は、外の明るい光の下で描き、キラキラと移りゆく一瞬の光の変化をとらえようとした。どうすればより明るい光と色彩を表現できるかを追求した結果、筆触分割に行き着いたんだと思います。
こやま 明るいのが流行ってたんですね。
山田 外の光で描くこと自体が新しい試みだったんですよ。画家といえば、屋外でイーゼル立ててベレー帽かぶって描いてるみたいなイメージ、あるでしょ?
こやま ありますね。川のほとりかなんかで描いてるイメージ。
山田 そのイメージは印象派の時代、つまり19世紀後半になってから生まれたものなんですよ。それまでの画家は、外でスケッチすることはあっても、油絵として仕上げる作業はアトリエのなかでしかやってませんでしたから。その点でも印象派は新しかった。で、そんな革新的なバティニョール派の画家たちが、古い価値観のサロンに出品しててもらちがあかないから、自分たちで展覧会を開くわけです。その記念すべき第1回の展覧会にモネが出品したのが、次の作品。
マルモッタン美術館にある『印象・日の出』。タイトルを早く決めろとせっつかれたモネが、「じゃあ『印象』で」みたいな軽い感じでつけたらしい。ところが、これを見た批評家が「タイトル通り印象しか伝わってこないダメ作品」と酷評して、そこからバティニョール派の連中は「印象派」と呼ばれるようになるわけです。
こやま 名作って、最初はディスられるものなんですねえ。