(1)相手を変えようとせず、
変わりやすい環境をつくろう
全ての前提として、ここで確認しておきたいのは、「人を変えることはできない」ということです。
もちろん、無理やり命じれば行動を変えることはできるでしょうが、また同じ問題がぶり返したり、恨みに思われたりしてしまいかねません。
相手への役割期待は、相手にとっても納得可能なものでなければ、単なる一時しのぎにしかならず、本当の意味では満たされないのです。
そもそも、私たちは相手に変わってほしいと思うとき、相手の人格をどこかで否定しているものです。
しかし、人格否定されて可能性を最大限に発揮してくれる人などいません。役割期待を伝える際にも、それは「行動」についてのものであって、「人格」についてのものにならないように、気をつける必要があります。
「もっと社会人としてきちんとしなさい」ではなく、「朝はちゃんと『おはようございます』と挨拶してね」ということなのです。
また、第3回の連載で「インタビュー」についてお話ししましたが、自分が相手に不満を感じるときには、ただちにその批判や是正に入るのではなく、まずは「相手はなぜそんなやり方をしているのか」を知ることが重要です。
その際、自分のジャッジメントはかなり邪魔になりますので、それをいったん脇に置きながら、本人の話を聴くようにします。
また、これもすでに言いましたが、「インタビュー」の際の一番の目標は、「なるほど」の瞬間を得ることです。「なるほど」の瞬間とは、一言で言えば腑に落ちるということです。
自分の価値観に照らし合わせてジャッジメントをしている限り、相手の言っていることは到底「理解不能」でしょう。
しかし、ジャッジメントを手放しながら話を聴いていくと、相手なりの文脈が見えてきます。そこが「機能するリーダー」の力です。
相手の価値観は自分から見れば「非常識」かもしれませんが、その「非常識」というジャッジメントも手放して話を聴いていくと、「そういう価値観を持った人なら、こういう行動になるだろう。なるほど」と腑に落ちることがあるのです。
腑に落ちたら、その延長線上で相手にプラスアルファの注文をつけることもできるでしょう。
なお、ジャッジメントを手放しながら話を聴くということについては、第5章で詳しくご説明します。
ここでは、ジャッジメントが真の理解を妨げる、ということを概念としてつかんでおいてください。