最近、対人関係の問題などで心を病む人が増えています。会社は多くの人が集まる場所。そこには、上司や先輩、同僚、部下や取引先など、多くの人間関係が生じます。それらの関係は、いずれもストレス要因になり得ます。職場のストレスをなくし、働きやすい環境をつくるのは、現場を預かるリーダーの仕事のうち。本連載では、『部下をもつ人の職場の人間関係』を上梓した対人関係療法の第一人者で精神科医の水島広子氏が、職場のストレスをなくし、円滑な人間関係をつくるコミュニケーションのコツをアドバイス。第3回は、職場のリーダーが考えるべきメンバーの「領域」について説明します。
リーダーは、部下より人間として格上なのか?
最近では、労働環境がとても厳しい会社は「ブラック企業」と呼ばれます。したがって、リーダーが健全な人権感覚を持っていることはとても大切です。
ここから言えることは、もしリーダーの中に、「部下のくせに」という気持ちが芽生えたら、要注意だということです。
職務上の上下関係は、決して人間の価値を決めるものではないからです。
なぜリーダーは、反論する部下に違和感を覚えるのでしょうか?
それは、「部下のくせに」という感覚(上から目線)があるからです。
職務上の上下関係は、職務を効率化するためにつくられている仕事上のシステムです。主に、責任の範囲を明確にするのがその役割です。
そのことと、人間としての価値が高いか低いかということは、全く関係がありません。社長であろうが、ドアマンであろうが、人間としては全く対等な個人同士です。
これは決してきれい事で言っているのではなく、豊かな人生を送りたいのであれば、リーダーであろうとなかろうと、誰もが心から認める必要のある考え方です。
ただし、人間はどうしても社会的地位と人間としての価値を結びつけがち。なので、それに流されないように、リーダーが率先してロールモデルを示していく必要があります。
それが「機能するリーダー」の条件とも言えるでしょう。
部下に対して、とても人道的とは思えない態度をとっているのは、「怖れのリーダー」である証拠とも言えます。
なぜそれが「怖れのリーダー」なのかと言うと、「怖れのリーダー」は基本的に自信がないからです。対等な人間として相手を見てしまうと、自分の価値が下がるように思ってしまうのです。
ですから、「自分は人間として格上」というような態度をとりたがるのです。あるいは、必要以上に上司に媚びて、同じような媚びを自分の部下に要求する「怖れのリーダー」もいます。