気合主義に陥らず、勝ち続けるためには?

岩崎『もしイノ』では、勝つための方法として選手にまず、プロの名選手の投球フォームや打撃フォームを真似させる「型の教育」をすることにします。これについてはどう思われましたか?

川上量生(かわかみ・のぶお)
1968年生まれ。91年に京都大学工学部卒業。同年、株式会社ソフトウェアジャパン入社。97年に株式会社ドワンゴ設立、代表取締役に就任。現在、同社代表取締役会長、カドカワ株式会社代表取締役社長、スタジオジブリプロデューサー見習い。06年よりウェブサービス「ニコニコ動画」運営に携わる。

川上 「型をつくる」というのは、実際のビジネスでもすごく役に立ちますよね。僕らが着メロのサービスをやっていたとき、最初は音楽的センスのあるスタッフ、つまり音大生を集めてつくろうとしたんですよ。センスがあれば、いい着メロができるから。でもそうすると、音楽的センスのある人材を集める競争になってしまう。だから、そのセンスの部分をマニュアル化できないかと考えました。そして、センスがいい人材が使う武器、つまり音色を技術的につくることにしました。ほかの着メロ会社が出せない音をつくったんです。そして、その音のライブラリを使えば、誰でもいい着メロがつくれるようにした。

岩崎 着メロ制作の「型」をつくったわけですね。

川上 そうです。そこに半年くらい時間をかけて、それから大量生産を始めました。いいものをつくるというのも人間の仕事なのですが、本当はそれをレプリケーション(複製)するシステムをどう設計するかがすごく大事なんです。

岩崎 ダメな企業というのは、たいていそのシステム作りをおろそかにして、むやみやたらとアイデアをひねり出そうとするというか、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるで、偶発的にでも0から1を作ることに重きをおいたりしますよね。

川上 そう、気合主義に陥りやすいですよね。どうやってシステムとして継続的に良いものをアウトプットできるようにするか、を考えないと。

岩崎 それでいうと、少し前に、量産フィギュアの生産量が爆発的に上がったということがあったのですが、それは塗りのシステムを変えたから、なんだそうです。昔は、一人が全部のパーツを塗っていた。でも、それをするには高度な技術の習得が必要で、できる人は少なかったから、生産量が上がらなかった。でも、あるときから中国の工場に外注して、パートを200くらいに分け、一人ひとりの塗る部分を少なくした。そうしたら、それほどの技術を必要としなくなったから、生産量を上げることができた。工程を発明する、というのもイノベーションのひとつですよね。

川上 がんばって勝つのではなく、勝ち続けられる仕組みをつくることが大事ですよね。僕は新しくコンテンツをつくるときも、かならずパターンをつくろうと意識しています。ある種のフォーマットです。それにのっければなんでもおもしろくなるフォーマットをつくれれば、いいコンテンツを量産できますから。

岩崎 川上さんは、イノベーションに型はあると思いますか? それとも、偶然の産物だと思いますか。型があれば、意図的に起こすこともできると思うのですが。

川上 起こす……イノベーションって、僕の感覚としては「見つける」ものなんですよね。世の中のイノベーションはだいたいパターン化されていますから。

岩崎 ということは、型があるということですね。『もしイノ』のなかでは、ドワンゴが主催しているコンピュータと棋士が対戦する「電王戦」の例を用いて、「認識の変化」がイノベーションの機会をもたらすと説明しました。コンピュータを「敵」ではなく「成長のための道具」だと認識することで、将棋界にもイノベーションが起こせると思ったんです。