セグメント1「ビジネス基礎」
基礎固めは古典的名作を「熟読」せよ。それが一番効果・効率的
これから4回に分けて、「読書ポートフォリオ・マトリクス(RPM)」(詳しくは第2回参照)のセグメントごとの効果的な読み方を紹介していきます。今回は左下のセグメント1「ビジネス基礎」です。
広大な関東平野は、台地と低地の組み合わせであり、低地はもともと海で砂が何十メートルも堆積しています。台地はといえばその名も関東ローム層。富士山や箱根山、八ヶ岳などの火山灰が積もってできた赤土の塊です。小さな住宅ならともかく、重くて背の高いものを砂や赤土に浮かべるわけにはいきません。
大型ビルの場合、その支持基盤は関東平野の地下数十メートルに横たわる「上総層」です。砂礫の硬く締まった層で、そこまで杭くいを打ち込むことが、傾かないビルの必須条件(*3)です。
ビジネスの基礎本として選ばれるのは大抵が、古典的名作です。年間何千冊と出版されるビジネス書の中で、かつ、大きく変わるビジネス環境の元で、何十年も読み続けられるというのは、すごいことです。ビジネスの根底を成す、「知」の支持基盤にまで届く力があるのです。
それらを「理解」するまで読み込むこと。このセグメントの本に対しては、熟読が必須です。半端な本を何冊読んでも、建築物本体(応用)を支える基礎にはなりません。
古典的名作は、必ずしも読みやすいわけではありませんし、初心者向けとも限りません。読み通す(通読)だけでもかなり大変でしょう。でも、一度でダメなら、1年後また挑戦すること。それでダメならもう1年後です。そして、基礎杭が1本では建物を支えられないのと同じように、古典的名作も1冊では足りません。10冊熟読を目指して頑張りましょう。 結局それが、一番の早道なのです。
耐えがたいほど分厚い『マーケティング・マネジメント』や
『競争の戦略』が土台となる
私がそういったビジネス系の古典的名作に取り組み始めたのは、大学4年の秋でした。インターンシップそのものが大学4年の夏だったのですが、内定後に10冊ほどの「宿題本」がBCGから送られてきたのです。
他はともかく、フィリップ・コトラー『マーケティング・マネジメント』とマイケル・ポーター『競争の戦略』は、必死で、でも楽しく読みました。
『マーケティング・マネジメント』は、当時まだ第4版(FORTH EDITION)でわずか526頁(2014年の第12版では1000頁)でしたが、24章にわたってマーケティングのあらゆる側面が論じられており、ただの理系の大学生には、目が回るような本でした。
その諸理論の中でも、12章「製品ライフサイクル戦略」こそが、その結晶でした。ピーター・ドイルが1076年に提唱したこの戦略論は製品のライフサイクルステージごとに、マーケティングの諸機能がどのように働くべきかを、明確に示すものでした。そしてそのときの収益状況まで。
それはたとえば、「導入期なら、顧客はイノベーターで少数。製品開発は基本性能の向上に務め、価格は高めでよく、宣伝は認知向上を図り、チャネルは専門店で。競争は未だないが、売上も少ないのでキャッシュフローは少しマイナスになる」といった具合の精妙華か麗な理論でした。
もうこれ以上、マーケティングを研究する余地はない、「マーケティングは死んだ」とまで言われたほどの究極のマーケティング理論だったのです。幸いそうではありませんでしたが(笑)
私にとっての問題は『競争の戦略』でした。経営論に経済学を持ち込んだポーターが、その経済学的理論を駆使した「産業構造分析(*4)」の集大成のハズなのですが、その表現は極めて文学的でした。まったく定量的でなく、「強い」とか「大きい」といった曖昧な形容詞だらけなのです。
たとえば、「多数乱戦業界となる経済的原因」として、「主なもの」が17個も挙げられていますが、「1 参入障壁が低い」「2 規模の経済性等が効かない」「3 輸送コストが高い」「4 在庫コストが高い」「5 買い手や売り手が強すぎる」「6 規模の不経済が致命的である」「7 製造設備がフレキシブル」「8 創造性が高い」……「12市場ニーズがさまざま」「13 イメージで1の差別化が著しい「14 撤退障壁が高い」「15 地域ごとの条例」「16 政府による企業集中の禁止」「17 業界が新しい」といった具合。
明確なのは……16の「禁止」くらいでしょうか。節以下の構造化もあまりなされておらず、8つ要因があると書いてあるのに数えたら7つしかなく、といった具合で全部を読みこなすのに、とっても苦労しました。でもそれが逆に、読んだものを自ら再構造化する、良い練習にもなりました。
また実際の企業事例が豊富で、理解の助け、読み続けるモチベーションとなりました。
*3 1914年完工の初代東京駅の基礎には、青森県産の松杭が1万1050本使われた。関東大震災に耐え、1975年の調査でも強度は十分だった。
*4 『競争の戦略』(原題もCompetitive Strategy)に、競争戦略に関する論考はほとんど出てこない。大部分はポーターも認めるとおり産業構造論である。