遅刻、きたない机、守れない約束……。そういう「だらしなさ」から抜け出すために、「整理術」の本を読んでも、絶対に解決しない。だらしない原因は、あなた自身すら思い出せない「過去」にあるから。『だから片づかない。なのに時間がない。』連載5回目は、そんなエピソードです。
「直したい」って、
ホントのホントに思ってる?
マットは、いくらがんばっても遅刻グセが直らない。度重なる遅刻は勤務成績にも響きはじめ、ピンチに立っていた。仕事の腕は一流だったが、顧客も同僚も彼に対していらだちを募らせていた。ついに意を決したマットは、「遅刻」が意味しているものは何なのか。その原因を心のうちに探ってみることにした。
そこで試しに、以前のように何がなんでも時間どおりにとがんばるのではなく、毎日少しずつ時間をとり、遅刻したときの「気分」を振りかえってみた。
「遅刻することが、自分にとって何か役に立っているのではないか?」
するとなぜか、マットは遅刻のたびにちょっとした「勝利」の気分を味わっていることに気づいた。いつも、遅れないようにと必死になっているつもりだった彼にとって、これは予想もしない発見だった。
ずっと思い出さなかった
父親に反発した気もち
この正体不明の勝利の気分の源泉を掘り下げてみた結果、父親にせかされていた少年時代の記憶にたどり着いた。学校、教会、親戚の集まりなどに行く途中はいつも、「ほら、急いで、早く」という声に追いかけられていた。
「思いどおりになんかならないぞ」とばかりに、わざとゆっくり歩いたことを思い出した。それどころか「もう誰にも急かされるものか」「絶対に自分の ペースは崩さない」と子どもながらに固く決意したのだ。一番の目標は「到着時間について誰の指図も受けない」ということを示して、父親に反発することだったのだ。
それに気づいてから、今の自分の行動を見返してみると、まるで「時間どおりに着くより職を失ったほうがまし」とでも言っているようだった。大昔の決意が、今の自分の無意識の行動につながっていると気づいた。
「ちょっと待てよ、もう大人だろ。父さんだって亡くなった。そろそろ昔の決意にさよならしてもいい時期だ。遅刻なんかしなくても、自分のペースを守る方法はある」。そんな風に自分をたしなめた。
マットは無意識の行動パターンを打ち破った。それ以降、遅刻することはなくなった。本当なのだ。危うく遅れそうになるときは、こう自分に言い聞かせた。
「時間どおりに着くのは、自分のためだ」。