金融庁は5月27日、日本振興銀行に対し、新規の大口融資や債権の買い取り、勧誘活動など3項目について、4ヵ月間の業務停止命令を出した。
処分理由は、金融庁の検査に適正に応じなかったとする検査忌避や、取引先に対する優越的地位の濫用、そして出資法違反の疑いなどじつに7項目にもわたる。銀行関係者はその多さに、「まるで法令違反のデパートだ」と驚きの声を上げる。
処分のなかでも、振興銀にとって痛いのは債権の買い取りが禁止されること。というのも振興銀は、いまや「サラ金銀行」(金融関係者)と揶揄されるまで、金利が高い商工ローンや消費者金融から安く債権を買い取って返済を受けることで、利益を出していたからだ。
おまけに買い取った債権を、銀行の貸し出しに置き換えて貸出残高を伸ばすことにも利用、その額は4200億円あまりの貸出金のうち、じつに「半分近くに上る」(振興銀関係者)というからこちらも大打撃だ。
さらに振興銀を追い込むのが、1億円以上の新規融資の停止だ。じつは振興銀は、中小企業にITや保証業務などさまざまなサービスを提供する目的で親密企業を組織化、「中小企業振興ネットワーク」という団体を組織している。
事情に詳しい関係者によれば振興銀は、このなかの企業に融資、資金をネットワーク内でぐるぐる回し、最終的には旧経営陣と親しい企業に資金を提供していたという。また、ネットワーク内の未上場企業に焦げついた債権を押し付けていたともいい、まさに「ネットワークを隠れ蓑にしていた」(同)というのだ。
振興銀は、こうした企業に十分な審査もなしに数十億円単位の融資を実施しており、金融庁は新規融資を停止させることで、こうした取引を断ち切ろうとしたとの見方がもっぱらだ。
となると、ネットワーク企業群は資金繰りに窮し、一気にドミノ倒しとなる可能性が高い。そうした事態となれば、貸倒引当金を十分に積んでいるとは思えない振興銀は、自己資本を大きく毀損してしまう。
債権の二重譲渡をめぐって、現在係争中のSFCG関連の債権も気になるところ。裁判の行方次第では債権が泡と消え、さらに引当金を積み増す必要性も出てくる。こうしたダブルパンチを受ければ、2010年3月末時点でわずか360億円しかない自己資本は枯渇してしまう危険性が高いのだ。
設立者の1人、木村剛前会長は前期決算が赤字になった責任を取って会社を去り、今回の処分を受けて社長と専務も取締役からはずれた。残された銀行のビジネスモデルも崩壊、中小企業に対し円滑な資金提供を行うという理念も今はなく、関心は、“敗戦処理”に移っていく。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)