リポジションとは、自分が置かれている環境を、意識的に変えること。特にキャリアが安定する40代半ばにリポジションすることは、その後の人生と自身の可能性を大きく変えるという。なぜなのか。書籍『変わり続ける―人生のリポジショニング戦略』の著者である出井伸之氏に聞いた。(まとめ/編集部)
30代40代は
人生の大転換期である
特に重要になるのが、40代半ばのリポジションだ。リポジションとは、自分が置かれている環境を、意識的に変えること、30代から40代にかけての「大転換」である。これをやるかやらないかで、その後の自身の可能性は大きく変わっていく。
仕事が安定しそうになる40代に、あえてリスクをとることは、できれば避けたいという人がほとんどだと思うが、長い人生において、安定を感じ始めたときこそ変化のタイミングである。今年を「変化の年」として、意識的、意図的に変化を選択することをお勧めしたい。
才能と分別心が
クロスするのが45歳
心から尊敬し、長くおつき合いをいただいている方に、ノーベル賞受賞者の江崎玲於奈さんがいらっしゃる。以前、江崎さんから極めて興味深いマトリックスをいただいた。
横に年齢軸、縦に大きさ軸を置き、「クリエイティブマインド」の直線と、「分別心」の直線を引いてみた図である。
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クリエイティブマインドは、年齢とともに衰えていく。言い換えれば「才能」である。その一方で、年齢とともに大きくなっていくのが、分別心。言い換えれば「経験」である。そして、ちょうどクロスする年齢が45歳なのである。
これが何を意味するのか。
45歳が人生の黄金期であるということだ。
つまり、才能と経験のバランスが最もよく、自分の力をいかんなく発揮できるというわけ。ゆえに人生の黄金期なのだ。
運動能力が求められるアスリートの最盛期や、将棋、チェスなどのクリエイティブな思考力が求められる競技のチャンピオンは、クリエイティブマインドが高く求められるので、交差するポイントが45歳より若いことが多い。このチャートは、人生の岐路の考え方であり、大きな示唆を与えてくれる。
クリエイティブマインドと、経験からなる分別心のバランスが交差するのが、45歳前後である。このタイミングでのリポジションを考えておくことが、いかに重要であることが、ご理解いただけたと思う。
僕自身、キャリア的にはようやく安定しつつある40代のリポジションがその後の人生を大きく変えたと実感している。
それまでのソニーの本社スタッフから大きく変わり、「部門経営者」であるオーディオ事業部長になり、見える景色は一変した。42歳のときだ。当時、文系出身者としてはじめてオーディオ事業部長になり、技術者と侃々諤々の議論ができ、事業部の経営を見ることができるようになったことが、後のキャリアに大きく影響した。今までの延長線上ではない、文系から理系、スタッフからマネジメントサイドの人間へと、大きく舵を切った。大きな決断だったが、それゆえ、大きな変化ができたともいえる。
45歳でリポジションできるか
重要なことは、2つが交差する、人生の最も充実した45歳で、「リポジション」が図れるかだと感じた。「リポジション」できなければ、クリエイティブマインドは失われ、分別心だけが大きくなる。そうなると、うるさくて面倒なだけの中年になっていくしかないのである。
しかし、「リポジション」をすれば、クリエイティブマインドの直線を右肩下がりにしなくて済むようになるのだ。なぜなら、環境を変え、大転換を図れば、ゼロからクリエイティブマインドを発揮し続けなければいけなくなるからである。
「リポジション」はクリエイティブマインドを下げないよう、常にわくわくしながら自分を成長させていける方法でもあるのだ。