欧州の地鳴りが止まない。財政危機のマグマがいずれの国で噴出するのか。ギリシャ危機が南欧に拡大し、東欧のハンガリーに飛び火した。マーケットは獲物を狙うがごとく、“次”を探す。白井・慶大教授は、「財政再建は、長く、苦しい、茨の道だ」と、欧州低迷の長期化を指摘する。

白井さゆり
慶応大学総合政策学部教授。経済学博士。専門は国際経済、マクロ経済、アジア経済。慶応大学大学院修士課程修了。コロンビア大学大学院博士課程修了。「欧州迷走」(日本経済新聞社)など著書多数。

―6月4日、ハンガリーの独自通貨フォリントが突然暴落したのはなぜか。

 現政権の失策だ。

 ハンガリーは財政赤字に悩み、また高水準の借金を抱えていた。2008年のリーマンショックで資本流出が起こり、外貨が枯渇、経済危機に陥った。IMF(国際通貨基金)とEU(欧州連合)は緊急支援プログラムを組み、200億ユーロの融資枠を設定した。支援期間は今年2010年の10月までだ。

 IMFとEUの支援は厳しい財政・経済改革が条件だ。ハンガリー政府はこの約束を死守するべく、改革を進めた。効果は現れた。財政赤字はGDP比で2006年の9%から2009年には3.9%に圧縮された。独自通貨のフォリントは一時30%近く下落したが、2009年5月から上昇し始め、外国資本も戻りつつあった。

―ハンガリーでは昨年4月に経済危機によって社会党政権が辞任においやられてバイナイ氏が率いる無党派の少数派内閣が成立した。この内閣はIMFプログラムに従って厳しい財政・経済改革を進めていたが、今年4月の総選挙で負けてしまった。

 そこが問題だ。財政赤字圧縮などの改革は進んだが、失業率は現在11%を超え昨年の成長率はマイナス6%となるなど厳しい経済状況を強いられ、国民の不満が溜まっていた。今年4月の総選挙で、野党のフィデス・ハンガリー市民同盟はそこに付け込んで大勝利した。「経済成長を実現する。雇用も100万人増やす。減税も行なうし財政を均衡させる」といった大衆迎合的な公約を連発した。IMFとEUプログラムでは今年、財政赤字をGDP比3.8%まで圧縮するノルマが課されている。夢物語の選挙公約と厳しい緊縮財政が両立するわけがない。

 新政権はIMFとEUを甘く見ていたのだろう。先週EUの欧州委員会に3.8%の目標を引き下げてほしいと要望した。