ありますよ。最初のうちは、「下野さんはゲイなのですか?」と聞かれたり、「それはテレビの世界の話ですよね?」と返されたりしました。長らく、LGBTの話題は、企業の方から苦笑いされる対象でした。さすがに、NHKの朝のニュース番組でもLGBTが取り上げられるようになったこの1~2年は、そういうことは減りましたが、私はいつも「LGBTのサポーターです」と胸を張って答えています。言うなれば、背中を押してあげる役割ですね。

 そう言えば、10年に副社長になってからは、こんなことがありました。ある新聞で、日本IBMのLGBT関連施策が取り上げられた際に、セクシャル・オリエンテーションという言葉が「性的指向」と訳されて、私は性的指向担当の副社長となっていたのです。その記事を読んだ私の取引先の偉い人からは、「下野くんは何をやっているのか?」と電話がかかってきましたよ(笑)。

――日本では、これからLGBT関連施策に取り組み始めようという大企業が多いのですが、なぜ日本IBMはLGBTの問題を含むダイバーシティに注力する必要があると考えているのですか。その根本的な必然性について、誰かに聞かれた場合には、下野さんはどのように説明していますか。

 やはり、日本IBMが属しているIT業界は、ものすごく変化のスピードが早い世界だということがあります。LGBTの問題に限らず、ダイバーシティという観点で行ってきた数々の取り組みは、慈善事業ではありません。例えば、国内では相対的に早かった女性活躍の推進にしても、少子高齢化が加速する中では、子供を産んだ優秀な女性にはそのまま退社することなく、1日でも早く戦力として戻ってきてほしいという動機から始まったことです。タレントの確保です。他社に転職することなく、末長く能力を発揮してほしい。根底にある問題意識は、障害者についても、LGBT当事者についても、同様です。

 日本IBMは、世間ではトラディショナルな大企業だという印象があるかもしれません。しかし、IT業界のように変化の激しい世界では、どこを切っても同じ「金太郎飴」の状態では劣後するリスクが高いのです。金太郎飴では、世界の企業を相手に戦えませんし、市場や顧客は地球規模で広がっています。その傾向がIBM全体で顕著になってきたのは、2000年以降ですね。世界全体で、IBMは、ダイバーシティは競争力の源泉であり、それなしにはビジネスでイノベーションは生まれないという方向性を、改めて加速させたのです。

 振り返ってみると、20年前の競合相手は、富士通、NEC、日立製作所などの日本企業でした。しかし、IBMは04年にPC部門を中国のレノボに売却したことから、現在の競合相手は米国のグーグル、アップルなどのITサービスの企業群に様変わりしています。アップルとは競合相手でありながら、互いに持たない能力を補完し合うというパートナーシップを結んでいるほどです。