理念に沿って決断する
同社の経営理念は、「おいしいものをお値打ちに提供する」。ここには「牛肉」と書かれてはいません。牛肉以外のものだとしても、お客様がおいしいと思ってくれるものをお値打ちに提供できていれば、理念を実践していることになります。
赤塚さんが大胆な決断を現場の人たちに伝えるときには、それが理念に沿っているかをつねに意識してきました。
危機が起きたときも、「決して人員削減はしない」とまず宣言したうえで、新たなビジネス展開について説明したそうです。
赤塚さんは、日ごろから365日ほぼ毎日、どこかの現場に足を運び、従業員たちと対話する時間を持つようにしています。赤塚さんが思いを語るだけではなく、従業員たちの声にも真摯に耳を傾けることを大切にしています。
ふだんから言葉のやりとりを繰り返してきたからこそ、従業員たちはトップの決断を信じて受け止めることができたのでしょう。こうして、多角化経営という大きな転換に際しても、従業員たちは気持ちを1つにして挑戦し、成功を手繰り寄せる結果となったのです。
柿安本店の例が興味深いのは、明治時代に創業された老舗の同族企業が、140年以上経ったいまも、ビジョン型のリーダーシップを実践しているという点です。
日本はいわゆる「100年企業」(創業100年以上の長寿企業)が世界で最も多い国だと言われています。こうした会社が企業哲学や経営理念を大切にしているということは、さまざまな調査や研究で明らかになっているとおりです。