「動き回るリーダー」ほど仕事がおそい!?

1000人以上の経営者へのインタビューを15年近く続けてきた藤沢久美氏は、「求められるリーダーシップが変化している」という。それをひと言で表したのが、最新刊のタイトルでもある『最高のリーダーは何もしない』だ。

前回は、「指示」をしないことで業績アップを実現させている企業の実例から、リーダーがすべきは「ビジョンをつくり、それをメンバーに浸透させること」だと述べた。今回は、リーダーの理想像が変化した理由をみていこう。

▼連載 第1回▼
「頼れるボス猿」から「内向的な小心者」へ…
優秀なリーダーの条件が変わった!

従来のリーダーシップは「遅すぎる」

前回、私がお伝えしようとしている新しいリーダーの典型的なあり方として、エー・ピーカンパニーの事例を紹介させていただきました。

▼連載 第2回▼
「指示しない職場」で業績が伸びている

今回は、なぜこうしたリーダーシップが生まれてきているのかを、社会の変化と合わせて整理しておきましょう。

21世紀にかけて急速に進んだ情報通信革命が、ビジネスのあり方を大きく変えました。かつては、一定の枠組みの下で、ゆっくりと小さな改善をしながら仕事をしていれば、会社や組織は安泰でした。

むしろ、ルールやマニュアルからはみ出ようとするメンバーがいないか注意しながらチームを統率する、軍隊の隊長のようなリーダーシップが求められていたのです。

しかし、いまではこうしたリーダーシップはうまく機能しません。
従来の「強いリーダーシップ」が機能不全に陥った原因は、大きく2つあります。

1つは、消費者の価値観やニーズの多様化です。インターネットをはじめとした情報通信の発展によって、かつて知りようがなかった「小さな価値観・ニーズ」が顕在化し、それがダイレクトに企業や組織に伝わるようになりました。
同時に、モノやサービスが充実したことで、量から質へ、「納得できる価値があるもの」へと人々の嗜好(しこう)が移ってきました。大量生産された商品や画一的なサービスではなく、精神的充足が得られる商品、特別感のあるサービスを求める傾向が強くなってきたのです。

もう1つは、変化のスピードです。各人の嗜好が多様であるだけでなく、その嗜好自体が大変なスピードで移ろいます。「先週喜ばれたものが、今週には陳腐化している」ということも起こる時代になりました。

こうした状況下で、リーダーが自社の商品・サービスのすべてを把握し、それぞれに対して意思決定をしていくのは不可能です。
また、現場がマニュアルだけに頼っていたり、個別のケースごとにリーダーの指示を仰いだりしていると、柔軟かつ素早い対応ができずに、お客様のニーズとのあいだにズレが生じることになります。

つまり、従来のトップダウン型リーダーシップだけでは「遅すぎる」のです。
めまぐるしく移り変わる複雑なニーズに対応していくには、現場にいるメンバーたちが自律的に動き、個別に対応するほかありません。