2.プーチン大統領の失脚リスク
ソ連と米国が世界を二分する大国であった時代は過ぎ去り、ソ連崩壊を経て21世紀は、米国の一極主義に中国が対抗意識を強める新たな「G2時代」を迎えつつあるように見える。だがロシアは、依然として大国としてのプライドを捨ててはいない。プーチン大統領が巧みな外交政策を通じて、世界に対して一定の影響力を保持しているのは周知の通りである。
大統領の任期は連続2期までとのロシア憲法の定めにより、2008年には第一副首相であったメドベージェフ(1965〜)が大統領の座に就いたが、政治の舞台に留まるプーチンは首相となって事実上の院政を敷いた。そして2012年には再び大統領選挙で3期目の大統領の座に就き、憲法を改正してその任期を4年から6年に延長したのである。
したがって、3期目の任期終了は2018年となり、2期連続となれば2024年まで大統領の座に留まることが可能になった。すなわち、理屈の上ではプーチン大統領が四半世紀にわたってロシアの指導者として君臨する、というシナリオが描けることになる。
1998年に破綻したロシア経済の復興、そしてクリミア編入やウクライナ東部への武力支援、およびシリア内戦や対IS攻撃のイニシアティブといった対外的な強硬姿勢は、ロシア国民のプーチン礼賛の基本的要因である。一方で、欧米だけでなく国内でもプーチンの経済運営に対する不満が徐々に蓄積されていることは否めない。
その主因は、国内景気の悪化である。
現時点でそれがプーチン批判に集結しないのは、経済的疲弊は欧米によるロシア制裁によるものだ、との主張が受け入れられているからだ。ウクライナ問題は、そもそも米国が引き起こしたクーデターであるとの理解が同国内では一般的である。シリア内戦も欧米が無理やりアサド政権を崩壊させようとしているから起きたものだ、との見方が定着している。国民の大半にとって、プーチン大統領はそうした非合理的な外圧に対する頼もしい防波堤なのである。
だが、同大統領も油断できない状況にある。
2015年末に承認された国家安全保障戦略において、ロシアはNATOと米国を「ロシアに対する脅威である」と明示したのである。これは、新冷戦の幕開けを予感させると同時に、国内に「アラブの春」のような反体制運動が拡大することへの強い警戒感を示している。
仮にプーチン大統領が表舞台から去るような事態になれば、強いリーダー不在のロシアへの不安が、資本市場に渦巻く可能性もある。中長期的には欧米との妥協への道が拓けるかもしれないが、機関投資家は目先の問題として同国政治経済の不安定化を懸念し、1998年のようなロシア危機の再来を思い浮かべる局面もあるだろう。
その場合は、「新冷戦」解消への期待感から、直感的にドル買いが連想されるかもしれない。ユーロ下落に伴う円のつれ高というシナリオもあり得るだろう。ロシア混迷の影響を受けやすい欧州から米国へ、すなわちユーロからドルへという資本の流れも予想される。ポスト・プーチン体制としての政権基盤が固まるまでは、欧州売りが続きそうだ。