ほとんどの人は、時間が経てば経つほどリスクが高くなると考えてしまう。運よく5年生きられたとしても、もう余命は残っていないわけだから死ぬ可能性は最高潮に達しているというわけだ。
しかし、ファイナンスはそうは考えない。
命綱があっても「転落リスク」は同じ
まず、ファイナンス理論で言うリスクは、「死ぬ確率」のことではなく、「死ぬかもしれない不確実性」である。たしかに時間の経過とともに死亡確率は上がっていくが、死ぬリスクはそれほど上がらないのだ。どういうことだろうか?
図のとおり、3年経過時点の死亡確率は50%だ。死亡確率50%ということは、どちらに転ぶかがいちばんわからない(不確実な)状態であり、実はここが最もリスクが高い。逆に、5年経過時点にはほぼ死ぬことが「確実」である。不確実性が低いということなので、リスクも小さくなる。
ここからわかるとおり、ファイナンス理論のリスク概念は「予想された事象の変動に関する不確実性」を指す。もう少しわかりやすく言えば、「どっちに転ぶか」のわからなさ度合いこそがリスクなのである。
縁起の悪い話ついでにもう1つ例題を考えよう。
1%の確率で転落するロッククライミング歴5年のRさんと、50%の確率で転落する初心者ロッククライマーのSさんがいる。Sさんはいつもどおり命綱をつけて登りはじめたが、Rさんはなんと命綱なしで挑戦している。このとき、どちらのリスクが高いか?