熊本地震で注目された「エコノミークラス症候群」。車中避難中だった女性の死亡確認に続き、複数の方が病院へ搬送された。

 エコノミークラス症候群は、狭い空間で長時間同じ姿勢を取ることにより血液の流れが滞る状態。

 特に膝から下の静脈内にたまった血液が固まり、ふくらはぎの静脈内に血栓ができると危険度が増す。狭い場所から這い出して身体を動かしたとたん、血栓が肺動脈へ飛び、大事な血管を詰まらせてしまうからだ。

 肺動脈が詰まると、息苦しさや息切れ、胸の痛みが生じ、重症になると突然死の恐れもある。

 熊本地震は4月14日の発生以降、震度6を超える余震が群発。倒壊の恐れがある家屋にとどまることができず、車中泊を選択した被災者が多かった。その選択が別の危険を呼び込んでしまったのである。

 この事態を受け循環器系7学会は、連名でエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)の予防法を発表。やむをえず車中泊をする場合や、避難所で運動ができない場合に実行してほしいとしている。

 以下にポイントを記載する。

・適切な指導の下、弾性ストッキングを着用する

・長時間自動車のシートに座った姿勢で眠らない

・時々、足首の運動を行う

・ふくらはぎをマッサージする

・十分な水分を補給する

・可能であれば、避難所で簡易ベッドを使用する

 重要なのは、寝る際に足をできるだけ心臓と同じ高さに保つこと。車のシートで寝る場合は、足の下に台を置くといい。足首を回したり、その場で足踏み、つま先とかかとの上げ下げも効果的だ。

 また、状況によって水分や場所の確保は難しいとしても、医療用の弾性ストッキングを非常用持ち出しバッグ内に常備しておこう。女性の足のむくみ解消用と思われがちだが、男女を問わずエコノミークラス症候群の予防に威力を発揮する。適度な圧力で静脈の動きが活発になるからだ。

 地震大国日本の住民として、覚えておいて損はない。貴い教訓を胸に刻み、その日に備えよう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)