入社前の前さばきで、価値観はある程度統一される

一人ひとりの好き嫌いを知るのが、人事の仕事

楠木 「好きなようにしてください」って言っても、僕は、ある会社に入っている段階で、相当いろんなものが前処理済みなのだと思います。

 どういうことかと言うと、僕だったらたぶん100回生まれ変わってもリクルートグループに入らない。それは、自分の好き嫌いを考えると、たぶん不幸せになるだろうなと、わりと容易に予想がつく。じゃあ、それが外資系ネット通販企業なのかっていうと、これもたぶん入らない。

 そもそも、自分は組織に入ったらまずいタイプ。いくらなんでも自分ごとなので、それぐらいは自分のことをわかっている。だから、若いころの僕の仕事を選ぶ基準は基本的に「1人でできる」ということ。そうすると、個人タクシーか、いまみたいな研究の仕事か、1人でやるようなお店屋さんか、もしくはシンガーとか。いくつかオプションはありますが、その時点で会社という選択肢はありえなかった。これは僕の例ですが、誰しもある程度までは自分の中で前さばきしていると思うんですよね。

一人ひとりの好き嫌いを知るのが、人事の仕事

 だから、その会社に入って来ている段階で、まるで向いてないということは確率的には少ない。そんなに毎日ハッピーじゃなくても、嫌いじゃない。「好きなようにしてください」っていうのは、本当はひとつの組織の中のほうがやりやすい面があると思います。

 ただ、規模が大きくなったり、一人ひとりがわからなくなると、画一的に「これがいいことなんですよ」と、好き嫌いを考えずに、良し悪しの話にすり替わっちゃう。これがまずい。本当は、市場よりも組織のほうが意外と「好きなようにする」がやりやすいはずなんです。会社全体の規模が大きくなったとしても、その中でいくつかの自己充足的なユニットに分かれていて、実質的には一定の規模の範囲で動けるようにしておくことが大切ですね。

※中編は6月1日(木)公開予定です。