“経営と財務のプロ”の立場から、ビジネスパーソンに向けて『一生モノのファイナンス入門 あなたの市場価値を高める必修知識』を上梓した朝倉智也さん。そして、4月に『平均寿命83歳!貯金は足りる?定年までにやるべき「お金」のこと——年金200万円で20年を安心に生きる方法』を書いた家計診断のプロ・深田晶恵さん。今回は、この2人が「夫婦で共有したい家計とファイナンスの考え方」について語り合います。
4000万円の家と15万円家賃の家
どっちがお得?
朝倉 先日、セミナー後の懇親会で『一生モノのファイナンス入門』を読んだという女性とお話しする機会があったんです。聞けば、「せっかく住宅ローン金利も下がっていることだし、そろそろ家を買いたい」と思っていたそうなのですが、ご主人は家を買うのに反対で、明確な理由の説明がないのでこれまでは納得できずにいたそうなんですね。
[モーニングスター株式会社 代表取締役社長]1989年慶應義塾大学文学部卒。銀行、証券会社にて資産運用助言業務に従事した後、1995年米国イリノイ大学経営学修士号取得 (MBA)。その後ソフトバンク株式会社財務部にて資金調達・資産運用全般、子会社の設立および上場準備を担当。1998年、モーニングスター株式会社設立に参画し、米国モーニングスターでの勤務を経て、2004年より現職。第三者の投信評価機関として、常に中立的・客観的な投資情報の提供を行い、個人投資家の的確な資産形成に努める。 主な著書に『〈新版〉投資信託選びでいちばん知りたいこと』、『30代からはじめる 投資信託選びでいちばん知りたいこと』(ともにダイヤモンド社)、『低迷相場でも負けない資産運用の新セオリー』(朝日新聞出版)がある。
深田 『一生モノのファイナンス入門』では、ファイナンスがプライベートでも役立つ例として、ファイナンスに基づいた「買ってもよい購入価格」の考え方が紹介されていましたよね。
朝倉 そうなんです。たとえば、「賃貸で住めば家賃15万円のマンション」を購入する場合、不動産投資として考えると、賃貸に出した場合は月15万円が家賃収入になります。
このキャッシュフロー30年分を、不動産の運用利回りを3%として割り引いて「現在価値」に換算すると、約3550万円。つまりファイナンスの考え方に基づけば、これより高い場合は買うべきではないということになります。
ですから、このマンションの場合、購入価格が3550万円以下であれば買ってもいい。しかし4000万円なら、賃貸で住んだ方が得ということなんです。
さらに言えば、マンションを買うときは住宅ローンを組むのが一般的ですよね。仮にこのマンションの購入価格が3500万円で現在価値より安いケースを想定しても、「30年返済、金利2%で元利均等返済、月々の返済額が約12万9000円」でローンを組むと総返済額は4600万円を超えます。ですから、このマンションは3500万円でもお買い得とは言い難いわけです。
深田 「ずっと賃貸で家賃を払い続けるのはもったいない」と考える人は少なくありませんし、住宅ローンを組むときは「返しきれるかどうか」ではなく「月々の返済額が払えそうかどうか」にばかり目が向きがちなものです。
そこでマンションの売り手から「貸すと家賃15万円を見込めるマンションが、月々12万9000円の返済で買えますよ」とセールストークを聞かされると、「それなら……」と思ってしまうんですよね。
朝倉 もちろん、住まいはライフスタイルにも大きく影響しますから、住宅の価値はファイナンス的な考え方だけで計れるものではないと思います。しかし、うっかり“高すぎる買い物”をすれば人生設計が変わってしまうこともありますから、やはり慎重に検討することは必要でしょう。懇親会でお話しした女性は、ファイナンス的に住宅購入を考える視点を知ったことでご主人と「家は賃貸でいい」と意見が一致したそうで、「夫婦の絆が深まりました」とおっしゃっていました。
深田 1冊の本が会話のきっかけになって夫婦の関係が強くなったというのは、いいお話しですね(笑)